現実主義勇者の王国再建記 3
目次
序章 月の照らすテラスにて
第一章 プロジェクト・ローレライ
幕間話1 イシヅカ様
第二章 ヴァンの街角での出会い
第三章 交渉
第四章 盟約
第五章 撤収
番外編 ある冒険者たちの物語3
第六章 獅子の檻の前で
第七章 約束
幕間話2 そのときの黒衣
第八章 罪と罰
終章 平穏はまだ遠し
―――大陸暦一五四六年十月三日夜・王都パルナム
雲が少なく、月の明るい夜。
数日前に、この国『エルフリーデン王国』と、隣国『アミドニア公国』との間で大きな戦いが行われたことなど微塵も感じさせないほどの静かな夜だった。
一連の戦いの勝者であるエルフリーデン王国の王都パルナムでは、戦勝報告を受けて一時お祭り騒ぎとなっていたが、数日経ったいまではだいぶ落ち着きを見せている。
若きエルフリーデン国王(戴冠式前なので暫定)ソーマ・カズヤは公都ヴァンとその周辺領土を占領した時点で戦闘停止を宣言し、いまは公国との交渉待ちの状況だった。国民たちはその交渉の行方を固唾を吞んで見守っていた。
そんな静かなパルナムの夜。ソーマたちがヴァンに行っているため、君主不在のパルナム城の中にある国王夫妻の寝室に併設されたテラスでは、先代国王アルベルトとその妻エリシャが月明かりの下でお茶を楽しんでいた。
「……静かな夜じゃのう」
「ふふふ。そうですわね」
お茶を飲みながら、二人は穏やかな顔で微笑んだ。
「婿殿もリーシアもいないこの城は、まるで火が消えたようじゃな。もっとも、少し前まではこんな空気が普通だったのじゃが」
「貴方が婿殿に王位を譲ってからというもの、慌ただしい日々が続いていましたからね。大臣に官僚、近衛兵に侍従メイドたちまでもが慌ただしく働いていました」
エリシャがそう言うと、アルベルトは「うむ……」と頷いた。
「そんな中でも、最も働いておったのは婿殿じゃったのう。この国のために国王として為すべきこと、国王だから為せることがあれほどまでにあったとは……。前国王としては不徳の致すところじゃが、王位を譲ったことは間違ってなかったと思える」
アルベルトによるソーマへの急な王位の禅譲。
この国王の急な交代劇に当初は反発もあったのだが、ソーマが打ち出す政策が着実に成果を挙げたことと、アルベルトの娘であるリーシア姫がソーマの婚約者とな