最果てのパラディンIII〈上〉 鉄錆の山の王
目次
序章
一章
二章
三章
四章
終章
《獣の森ビースト・ウツズ》の奥深く。偉大なる森の主、《ヒイラギの王》の座所は、渦巻く瘴気と腐った木の葉、枯れ落ちた木々が満ちる地獄と化していた。
向かう先、座所の中枢に至る道からは、歪な人影――《落とし子スポーン》と呼ばれる下級の悪魔デーモンが群れをなして繰り出してくる。
不釣り合いなほどに爽やかな初夏の太陽の光の下、まるで腐り落ちた死体のあばら骨を思わせる枯れ木並木の中を、僕たちは疾走する。
「メネルっ!」
「おうっ! 『あまねく妖精よ。かそけきもの、夕暮れと朝霧に遊ぶものよ――』」
銀の髪が翻る。足を止めたメネルが、両手を広げて精霊たちに呼びかける朗々たる声。
それを背後に聞きながら、僕は愛槍《おぼろ月ペイルムーン》を手に前進。
「『目覚めよ! 汝らの優しき庇護者、森の王は危機にあり! 報恩の時は、今ぞ!』」
自然の力が弱体化した、この瘴気渦巻く座所にあって。力を失い、自我を拡散させかけていた妖精たちが、メネルの強い呼びかけに目覚め、自我を取り戻しはじめる。
朗々とした呼びかけに惹きつけられるように、彼の周囲に妖精たちが集い始める気配が、僕にも感じられた。
背筋が震えるほどの自然の力が、メネルのもとに集い始めている。
「『手に刃もて、弓をつがえよ! 火蜥蜴サラマンダーの矢、土妖精ノームの槌、水乙女ウンデイーネの槍、風乙女シルフの刃……』」
それを頼もしさとして感じながら、僕は襲いかかる敵に向けて槍を振るう。
人の形をした粘土を子供が適当にこねて遊んだような《落とし子スポーン》たちを、次々に貫き薙ぎ払う。
「『今ぞ、開戦の角笛は響けり! 傲慢なる侵略者に――』」
詠唱も終幕に入った。気合の掛け声とともに盾ごとの体当たりシールドバツシユ。《落とし子スポーン》の一体を弾き飛ばして、迫る群れの中へと叩き込むと、斜め後ろに大きく飛び退り――
「『――四大の裁きは下されん!』」
その瞬間。眼前で、膨大な死が巻き起こった。
突如として放たれた火炎の矢が、熟練の射手隊の一斉射撃のごとく敵を討ち。
地面からは瘴気を吹き払うように持ち上がった巨大な岩の槌が、悪魔デーモンたちを叩き伏せる。
あるいは汚泥から清水が噴き上がり、螺旋を描いて悪魔デーモンの胸を穿ち。