うさぎ強盗には死んでもらう
うさぎ強盗には死んでもらう
橘 ユマ
角川スニーカー文庫
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本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。
CONTENTS
キャラクター
序章
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
幕間1
第7章
第8章
第9章
第10章
第11章
第12章
幕間2
第13章
終章
あとがき
1
「あ、日名子姉さん、スマホ忘れてますよ」
充電器からスマートフォンを引き抜きながら、天野樹里が言った。
彼女はスマホを胸の中に抱えると、リビングの椅子の上に足を乗せ、猫のように身を丸くした。大きな目でじっと画面を覗きながら、ふわふわと柔らかそうな髪を所在なさそうに弄っていた。
「充電器さしたまま家出ちゃったんですねー。どうします? 届けに行きます?」
アーミーナイフのドライバーで鳩時計を分解していた黒崎雅也は、作業の手を止める。黒いスラックスに巻いたシザーバッグにナイフをしまい、折り返して捲ったシャツの袖を整えた。
「……届けに行く義理があるか?」
「そりゃもちろん、この部屋に厄介になってる身ですから!」
「……まあ、それはそうだけど。でも別に、頼まれたわけじゃないし」
「雅也の兄さんだって、別に頼まれてその時計修理しているわけじゃないでしょう?」
雅也は首筋を軽く搔いた。壊れた鳩時計の修理を試みたのは、盗みを働いたことへの、ちょっとした罪滅ぼしのつもりだった。
数分前、樹里が冷凍庫からアイスクリームを勝手に出して食べていたのを見た。つい羨ましくなり、一番安っぽいアイスバーを自分も一つ口にすると、樹里が「あ、兄さん。それ、そこそこ値の張る銘柄ですよ、六百円しますよ。日名子姉さんブチ切れるやつですよ」と抜かしてきた。雅也はいたたまれない顔つきで二、三口かじったあと、残りを樹里に手渡したのだ。
「スマホを届けてあげれば、日名子姉さんも兄さんを見直しますよ。『このアイス泥棒がぁ!』なんて言いませんから!」
「……多分、その辺の事情は変わんないと思う」
「いやいや、日名子姉さんはちゃんと人の誠意を汲みとってくれる人ですよ」
「……樹里は日名子の何を知ってるというんだ