妖姫のおとむらい
小学館eBooks〈立ち読み版〉
妖姫のおとむらい
希
イラスト こずみっく
目次
序章
第一話「風鈴ライチの音色」
第二話「焼き立て琥珀パンの匂い」
第三話「ツグミ貝の杯の触り心地」
第四話「ホロホロ肉の歯ごたえ」
序章
古本が、でたらめな高低差で部屋の畳に直接積まれている。
時代がかった六畳一間の貸し間で、よく見ればその大量の古本以外は家具調度に乏しい。
間借り人は万年金欠気味の男子学生、比良坂半。
彼がその懐事情の厳しさを押しきって卓袱台に並べたのが、バラエティに富んだ、というより統一性に欠ける山盛りの料理だ。
ニスの剥げかかった卓上には、鱧と里芋の汁物の椀がある。
アンディーブと貝のサラダの皿も置かれた。
ピラフと豚カツとスパゲッティを一緒くたに盛ったプレートも並んだ。
それらが所狭しとひしめいた。
「ほお。京料理に、フランス料理風のがあり、そちらのは確かどこかで、見聞きした。確か『トルコライス』とか」
積み上がった古本に雅びやかな物腰で腰掛けた笠縫が、小首を傾げる。
姿形は華奢な少女としか思われない彼女。
なのに、身にまとう気配は、優艶で、練れて、不思議に人間離れしていた。
「どれも美味しそうだこと。ずいぶんったものだわえ。こんなにもたくさん」
「もちろん俺ひとりの分じゃない。君の分もあるからだ」
普段は呑気で眠たげな面つきをしている半なのだが、今は何やら思い詰めた顔色だ。
「またぞろ、俺はここにいられなくなってきたっぽい。それを今から確かめる。まあ君も付き合ってくれ。そして俺に教えてほしい。この食い物が、どんな味してるのかってことを」
奇妙な言い草だが、半は真剣そのものといった顔で、いただきますと手を合わせた。
卓上の料理を、挑んでいくといった方が良さげな勢いで食べ始める。
「……ああ、またそういう頃合いに差しかかるのかや」
笠縫も何事か察した様子で半に頷き返す。
さっそくお相伴にあずかる彼女の箸遣いと礼儀は、場違いなほど水際立って優雅だった。
まず始めに鱧と里芋の汁物。
入念に骨引きした鱧を注意深く湯がいて葛湯に浸して、里芋の練り物とししとうと薬味を添えた温かなもの。
笠縫の口の中で、淡白でいて奥深い味の鱧の身と柔らかな芋が、丹念にとった出汁の春の