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作者:杉井光
类型:少年向 书籍样本 日文
出版:2017-02-02(ASCII Media Works)
价格:¥616 原版
文库:电击文库
丛书:火目の巫女(2)
代购:lumagic.taobao.com
火目の巫女 巻ノ二  松明の火が、殯宮の扉をぼんやりと照らしている。夜の森の静寂の底に、火鎮めの祝詞の低い唱和だけがわだかまっている。  殯宮は、勾配のきつい山の斜面に半分埋まるように建てられた小さな宮だ。屋根にも柱にもなんの装飾もない。炎の光を受けた白木の壁は、肉が融け落ちたあとにあらわれる化生の骨の色を思わせた。  二人の神祇官が、松明を片手に木段をのぼって両開きの扉に近づき、錠前の上に貼りつけられた札をはがした。暗くてはっきりとは見えなかったが、札に朱書きされた紋様は伊月にも見憶えがあった。  ──祀られているのではなく。  ──封じられている。  神祇官二人が扉の左右に身を引き、伊月の方を──否、伊月の隣に立つ豊日の方を見てうなずいた。同時に、左と右に列をなして控える黒衣の衆が、互いに向き合って、松明をくくりつけた鉾を高く掲げる。鉾の穂の付け根に結びつけられた、紅糸と金糸の房が、かすかに光をはじく。  火護衆《と》組、鉾衆の精鋭を示す房である。  並んで向かい合った、見慣れた顔のどれもが、伊月には青黒い死人の顔に見えた。  祝詞がぴたりと止む。  それを引き取り、豊日の冴えきった声が呪言を継ぐ。 「観宮高市 万火之神 健備給事无 廃火儀意鎮坐……」  伊月も豊日も、火護衆の白装束ではなく袖の絞られた黒衣を纏っている。そのうえ豊日の腰には銅の鎖が何重にも巻き付けられ、手には抜き身の宝剣がある。戦場に赴くときの装束だと伊月は教えられた。  伊月もまた腰の矢筒には鋼の矢尻の戦矢をそろえ、腰帯には鉾衆たちと同じ紅房をつけている。  ──なんて剣吞な儀式だろう。  豊日が一段、また一段、殯宮の扉に近づく。小柄な身体が逆光の中で黒々とした影になる。  伊月も弓と松明を手にその後に続く。  呪言が低いつぶやきとなり、松明の火がくすぶる音だけがはっきりと聞こえる。  豊日の左手が、そっと扉に触れた。 *  四日前。  火垂苑の釣殿でのことである。 「──廃火の儀?」  伊月には聞き慣れぬ言葉だった。 「火目に関わること?」 「うむ」  火護装束の豊日は欄干に腰掛け、池の方に顔を向けたまま言う。 「宮中でも神祇官しか知らぬ。お前様が知らぬのも無理はない」  口調は老爺のようだが、その姿は伊月が出逢ったときから変わらず十二、三歳の童子のそれで、