夜が来るまで待って3
小学館eBooks〈立ち読み版〉
夜が来るまで待って 3
小木君人
イラスト 梅原えみか
目次
真夏の夜の来訪者
二人の夜
選ばれなかった私
全開
もっとぎゅっと抱き締めて
最後の挨拶
眠れないの、と彼女は言った。
新しい日付を迎えたばかりの夜。
東森鷹兎と槇村伽夜は、二人で海を眺めていた。
潮騒が耳に心地よく響いてくる。
見上げれば、プラネタリウムでしか見たことがないような満天の星々。
綺麗だ。
自然の美しさに心奪われ陶然と微笑む彼女、その横顔がなにより綺麗だった。
恋愛に疎い鷹兎でもわかる。
想いを伝えるなら、今は最高のタイミングだ。
二人っきり。
美しい夜。
舞台は整っている。
(言わなきゃ……こんなチャンス……二度とないかも……)
鷹兎はごくりとつばを飲み込むと、胸いっぱいに詰まった気持ちを言葉にしようとした。
伽夜先輩、僕は、あなたのことが……!
──物語は丸一日さかのぼる。
1
時刻は午前零時をわずかに過ぎた頃。
東森鷹兎と彼の影子・ハルハは、自宅二階の寝室にて、汗だくになりながら同じ布団に横たわっていた。
暑いからだ。八月に入って、まさに夏真っ盛り。今夜で十日連続の熱帯夜である。
かつて祖父母が住んでいたこの家にはクーラーがなかった。布団の脇に置いてある古びた扇風機が、ぎこちなく首を振って、生ぬるい風を吹きつけてくる。心地よいとは言いがたい。
部屋の窓と、廊下に通じるふすまを全開にしてあるが、今夜はそよ風もなく、入ってくるのは蟬の大合唱ばかり。
布団に入って一時間ほど経ったが、暑苦しさにまったく眠気が降りてこなかった。
「……ねぇハルハ……暑いよね?」
「……うん……」
鷹兎がそっと囁きかけると、力のない声が返ってきた。
「あのさ、影に入って寝たら? 影の中って暑くないんでしょう?」
もう一度呼びかけると、闇の中でハルハの体がもぞもぞと動く。
「……やーん、一緒のお布団がいいの~……」
ぎゅうう~、としがみついてきた。首筋に絡みつくハルハの腕、触れ合うふくらはぎ。汗にまみれた皮膚と皮膚が、ぬるぬるとこすれ合って一つになる。気持ちいいのか悪いのかもうわからない。ただこんなにも懐かれて、甘えられたら、嬉しくない