ありふれた職業で世界最強 5
目次
序章
第一章 グリューエン大火山
第二章 メルジーネ海底遺跡
第三章 新たな誓い
終章
番外編 晴れ時々、局所的雷龍
荘厳な王城の広い廊下を、一人の男が歩いていた。カッカッと乱暴に踏み鳴らされる足音と、男の険しい表情に、すれ違った者達はぎょっとした表情をしている。
「フリード様っ」
荒れ狂う内心を自覚なく垂れ流していた男に、張りつめたような声がかかった。
「ミハイルか」
「フリード様っ。カトレアが、カトレアがやられたと! 任務から戻ったら、他の連中が話していてっ。噓ですよね? カトレアが死んだなんて、そんなのあるわけがない! だって、あいつにはフリード様のアハトドだってついてっ――」
フリードと呼ばれた男は、取り乱した様子の部下――ミハイルの肩に手を置いた。ぐっと、何かを堪えるような力強さで。それだけで、ミハイルは悟った。【オルクス大迷宮】への任務に旅立った大切な存在が、永遠に帰らぬ人になったということを。
「なぜ……そんな。勇者は、それほどに強力だったのですか? あれほどの魔物を従えても歯が立たないほどに? そんなことが……」
「落ち着け、ミハイル。事前の調査に間違いはない。今の勇者に、カトレアを退けるほどの力はないはずだ」
「ではっ、ではなぜっ」
瞳に絶望を映し、フリードへ摑みかからんばかりの勢いで尋ねるミハイル。フリードは、頭を振ると、おもむろに関係のなさそうな、されど重大な問題を口にした。
「ウルの町での任務が、失敗に終わった」
「なっ。……それは、やはり対象が裏切らなかったと?」
「いや、そうではない。作戦は成功し、六万の魔物がウルの町ごと豊穣の女神を蹂躙するはずだった。だが――イレギュラーに潰されたのだ」
「イレ、ギュラー?」
なんのことだと首を傾げるミハイルに、フリードは、まるで見えない敵を睨みつけるが如く、虚空へ鋭い視線を向けた。
「たった四人に、魔物の軍勢を蹂躙されたのだ。おまけに、任務に当たっていたレイスは片腕を失い、帰還を強行したために戦線復帰は絶望的な状況だ」
「馬鹿な、レイスまで……。それにフリード様の強化を受けていない魔物とはいえ、その数を四人で? それはいったいなんの冗談ですか?」
慄くようにふらついたミハイルへ、フリードは視線を戻す。
「冗談であればよかったのだがな…