夜が来るまで待って
小学館eBooks〈立ち読み版〉
夜が来るまで待って
小木君人
イラスト 梅原えみか
目次
返事はいつも「はい」か「イエス」
パパは高校一年生
破滅の国へ
夜をぶっ飛ばせ
三人で一緒に
あとがき
1
どくんどくんと、少年の心臓は期待に打ち震えていた。
机の上には雑誌が一冊。
震える指先がその雑誌の秘密のページ──袋とじ──の間に差し込まれる。少年はカッターナイフを持っていなかったので、プラスチックの下敷きで代用した。ギコギコと側面をこすりつけて、丁寧にゆっくりと、閉じたページを切り開いていく。
ギコギコギコ──少年の上半身がリズミカルに揺れる。その姿は熟練の職人を思わせた。
ギコギコブツッ。ついにページの下から上までが切り裂かれた。
少年は二度、三度と深呼吸をしてから、ぎざぎざの切り口をつまんで、禁断のページをめくった。秘密のベールがはがされる。
「ほほう……!」小さな声でうなり、さらにページをめくろうとする。
そのとき──、
「ジャ~ンケンッ!」
耳障りな大声が鼓膜を突き抜け、少年──東森鷹兎は、自分が学校にいることを思い出した。
ここは教室。今は昼休み。
カーテンがふわっとふくらみ、窓から六月のさわやかな風が吹き込む。雑誌のページがパラパラといたずらされ、鷹兎は慌ててページの端を手で押さえた。
教室の後ろのほうで大騒ぎしている一団を不愉快そうに一瞥し、鷹兎はまた机の上のゲーム雑誌に視線を戻す。今日発売されたばかりの最新号で、登校途中にコンビニで買ったものだ。
鷹兎は毎週、この雑誌を購入して学校に来る。そして昼休みに教室でそれを広げて読んだ。
ぴっかぴかの高校一年生の鷹兎が、このクラス──一年二組──に配属されてから二か月ちょっと経ったのだが、友達と呼べるような相手はまだいなかった。こうしてゲーム雑誌を広げて、ゲーム好きをアピールしているのだが、未だ声をかけてくる者はいない。
(ゲーム好きの奴、このクラスにはいないのかな……)
とはいっても、鷹兎自身はそれほどゲームマニアというわけではなかった。有名どころにそこそこ手をつける程度のいわゆるライトゲーマーで、同じゲームを何百時間もやり込んだりしたことはない。しかし〝ゲーム好き〟以外に他人と接点を持てるような要素がほ