キモイマン
小学館eBooks〈立ち読み版〉
キモイマン
中沢 健
イラスト 荻pote
目次
序
第一章 ジャスティスター
第二章 キモイマン
第三章 偽キモイマン
第四章 キモイマンX
終 章 ヒーロー
あとがき
序
小学四年生の夏休み、オレは人生初のカツアゲに遭った。
ゲームを買うために自転車で隣町のデパートに向かっていたオレは、その道中にある駄菓子屋の前を通ったところで見知らぬ中学生たちに声をかけられてしまった。後から考えれば、無視してそのまま全力で逃げればよかった。だけど、中学生に呼び止められて、小学生のオレには逆らう勇気も咄嗟には湧いてこなかった。
そのまま、駄菓子屋の裏手に連れていかれたオレは、五、六人の中学生たちに囲まれた。何が起こっているのか周囲に見えないように、集団で壁を作るようにして立つ彼らを見上げながら、学校で先生から「最近、お金をせびってくる中学生が多いから気をつけなさい」と言われていたことを思い出したが、具体的にどう気をつけるべきなのかは教えてもらった覚えがなかった。
「おまえ、どこ小?」
中学生の一人からそう聞かれ、
「す、鈴村小です」
と答えると、中学生たちは目で示し合わせた。よその町から来た人間だと分かり、カモにするにはちょうどいいと考えたのだろう。正直に答えず、この町の小学校だと嘘をついたほうがよかったと後悔した。
「はい、出して」
にたにた笑いながら中学生の一人が手の平を差し出してきた。周りの中学生たちと比べると、大柄で迫力もあるこの男がグループのリーダー格なんだろうと思った。ここで「何をですか?」なんてしらばっくれてもいいことはないのだろう。オレはおとなしく財布を差し出すしかなかった。
ゲームが買えないのはいやだったけれど、せっかく貯めたお小遣いを奪われるのはつらかったけれど、ここで断って痛い目に遭うのはもっといやだった。どうせ盗られるなら、何もされないうちにさっさと渡してしまったほうがいい。まだ彼らが笑っているうちに。
相手の要望に応えて財布をポケットから出したそのときである。
「渡さなくていいよ」
男の子の声が、中学生たちの背中越しに聞こえてきた。
中学生たちは、後ろを振り返る。そこにいたのはオレと同い年くらいの小学生だった。
「なんだ、おまえ?」