魔王、配信中!?
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イラスト/れい亜
デザイン/ムシカゴグラフィクス
『はいどうもおー! みなさんこんばんは、魔王でっす!』
きゃはっ、とでも言いそうにブッた笑顔で金髪金眼の美少女が愛想を振りまく。というか実際言った。見ていて吐きそうだった。
ニカニカ動画の生放送である。
『わこつ』『ばんわ』『こんばんちわ』『魔王さん今日もかわいい』『死ねクソ魔王』等々無秩序にコメントが流れるPC画面で、美少女は軽快なオープニングトークでリスナーを盛り上げる。今日はなんたらのテリーヌとかいう新しい料理に挑戦したらしい。
ウソつけバカ野郎。食器の一つも洗わないくせに。
『今日は前回予告していたとおり、○○○で始まったイベントのガチャをまわしたいと思いまーす! この新しく実装されたキャラがほんと私好みでえー──』
金髪金眼美少女は挨拶もそこそこに本題に入ったようだ。
取り出したるはマイスマフォ。映し出したるは有名な某ソシャゲのプレイ画面。どうやらこれから課金するらしい。最低でも百回は回すつもりだとか。調べによれば百回まわすのにかかる金額はウン万円におよぶ。
ギルティだ。情状酌量の余地なし。
日下勇真はその手に金属バットを持って部屋を出る。
薄暗い板張りの長い廊下を進み、やがて離れの部屋のドアの前に立つ。
『それでは早速──……は? 後ろ? 何を……ぶはっ!?!?』
ノックはせず問答無用でドアを押し開けた。
離れの部屋の中には、生放送中の金髪金眼の美少女──日下家に居候している魔王がいた。腰を抜かしてこちらを見ている。
PCに備え付けられたウェブカメラは、馬の被り物で顔を隠した勇真の姿もおさめている。動画は大荒れだ。『馬だ』『バットもってんぞあの馬』『やべえ』『やっちまえ馬面』。その様子を勇真は自分のスマフォでもまた確認した。
うん。バットは思い付きだったがこの絵面はたしかにやばい。
「きき、きさま何を考えて……あっ!? こらっ!」
じゃっかん地の出た声で慌てふためく金髪金眼美少女を尻目に、勇真は生放送中のパソコンに向かって無言でバットを振り下ろす──フリをして普通に電源を落とした。
スマフォで確認すると生放送はきっちり暗転している。
うむ。ミッションコンプリート