文句の付けようがないラブコメ 6
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神が生まれる前のことⅡ
神が生まれた後のこと
ダッシュエックス文庫DIGITAL
文句の付けようがないラブコメ 6
鈴木大輔
始めに記す。これは茶番だ。
少女Aはただひとりの生き残りだ。
数限りなくいた、彼女と同じような境遇の被験者たち――その中で唯一〝成功〟し、満足な結果を得ることができたのは、Aのみだった。
まずはAの生まれた世界について語らねばならない。
ひとことで言って、その世界は壊れかけていた。人口の爆発的な増加、それに伴う環境の破壊。長期的な気候の大変動、はびこる疫病、そして戦争――崩壊の原因は枚挙にいとまがない。およそ『人間』に類似する存在が生態系の上位を占める世界であれば、おそらく必然的にたどり着くであろう、あるいはどこかで乗り越えねばならない、いわば試練のようなものである。
試練、と言ってしまうと、ずいぶんお気楽な響きではあるが。
なんならある種の陶酔さえもよおす、ヒロイックな物語すら想起させる、そんな語感すら持っているのだが。
無論そんなことはない。
有り体に言って、もしくは率直に表現して、世界のありさまは地獄絵図であった。
恐怖と絶望に満たされた、まさしく末期の状態が、世界を覆っていた。神も仏もいないことを人々は認めざるをえなかった。少なくとも彼らには超越者の救いの手が差し伸べられることはなかった。急速に、それでいて緩慢に――滅びに抵抗する程度にはまだ人々の気力は残されていた――破滅の時は近づきつつあった。
そう抵抗、である。
抵抗するからには、まだ可能性が残されていたということだ。
捨てる神あれば拾う神あり、と言う。人々の中には、知恵もあり、気概もあり、忍び寄る滅びに対して徹底的に抗おうとする一派も存在した。
何をしてでも世界を滅びから救いだそう、と考える彼らは『拾う神』であり、人類にとっては英雄たちであった。
そう。何をしてでもである。
英雄たちの存在は徹底的に秘匿された。
滅びに抗う彼らはきわめて合理的であった。世界を救う大仕事は、有象無象の多数決では決して果たせない、ということをよく識っていた。
彼らの元には世界中からあらゆる資産が集まってきた。金銭、人材、権力、その他もろもろ。彼らはひとり残ら