白き姫騎士と黒の戦略家
ご利用になるブラウザまたはビューワにより、表示が異なることがあります。
口絵・本文イラスト/鳥飼やすゆき
序章
王城に隣接する練兵場には、集団戦の演習を終えた騎士団の団員たちが集まっている。
ほとんどの兵士が鎧を脱ぎ汗を拭っている中でただひとり、ジークだけは身体に合わない全身鎧のまま訓練教官と向き合い剣を握っていた。
「騎士道なんて骨董品をいつまでありがたがってるんだよ、くだらない」
訓練教官に向かって暴言を放ったジークの右肩を鉄の刃が激しく打つ。刃の潰された訓練用の剣でも鎧の板金をへこませるには十分だ。骨まで達する痺れるような痛みに、握っていた剣の先が下がる。
「貴様、模擬戦で勝ったぐらいで何をいい気になっているんだ! おい、ミルコ。この痴れ者にエルベリス騎士の心得を教えてやれ」
忌々しげな表情を浮かべた教官は、見物している団員に切っ先を向けて命じた。
「はいっ!」
同期入団のミルコが背筋を伸ばすと、お馴染みの口上を始める。
「ひとつ、エルベリス騎士たるもの主君に尽くし決して仲間を裏切らないこと! ひとつ、どんな強敵にも恐れず立ち向かっていくこと! ひとつ、恥じることのない正々堂々たる戦いをすること! ひとつ、いかなる時も自分を律すること! ひとつ、それらを体現する心身の強さを持つこと!」
全てを言い終わり、ミルコは安堵の息を漏らす。訓練の最後にいつも言わされているのだから、一字一句間違えるはずもない。大げさなやつだ。
「ジーク、お前にはその全てが足らんのだ!」
責の声と共に、横殴りの一撃が下がっていたジークの左腕を襲う。咄嗟に左腕に力を入れたが、衝撃に耐え切れない。鎧の重量に負けバランスを崩し、正面から地面に倒れこんでしまった。
訓練で酷使され倉庫に転がっていた鎧は手入れもされていない。金具が壊れていたり、穴が空いたり、欠けていたりする。その尖った部分が皮膚を傷つけ、鎧の下で血を流していた。
「おいおい、ジーク。しっかりしろよ。このままじゃ俺の酒代がなくなっちまう」
周囲を囲み訓練を見ている他の騎士たちが、軽い笑い声を漏らす。何度目で立てなくなるか賭けているのだ。地面に転がったのはこれで五回目。重い鎧を着ているせいで、一方的に打ち据えられているだけでも体力が奪われている。
おとなしく折れて地面に転がってしま