まるで人だな、ルーシー
まるで人だな、ルーシー
零真似
角川スニーカー文庫
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本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。
目次
序章
脆弱な整合性
背中を向けた合同図形
完全数はゼロを覗く
閑話 夜も更けて
ヒトゲノムは無限か?
終章
あとがき
人身御供が上り坂を駆ける。真っ赤なポーチを腰で揺らして。
勾配の急な山道。何年も前に乗り捨てられて色あせた軽トラックのサイドミラーを摑んで華麗なターン。
御剣乃音は空き地に立つ。
砂と土と雑草でできた海岸近くの空き地。微かに届いていた潮騒を打ち消す声で御剣は言った。
「その子を放せ」
真昼の空き地のど真ん中で悪事は起きていた。
ダンプカーみたいな大きな身体をした男と土管みたいに太い腕を持つ男と滝のように汗をかいた男に、ひとりの少女が囲まれていた。
髪は銀色。瞳は紫。高い鼻とぷっくり膨らんだ唇。日本人離れして整った顔立ち。純白のワンピースは彼女の肌を適度に露出し、夏の獣の本能を駆り立てていた。
「なんだぁボウズ? これから楽しもうってぇのに、それを邪魔しよぉってか?」
ダンプカーが唸る。
「変な正義感は身を滅ぼすぜよ」
土管がぶつかり合う。
「そそそおそっそうでござる! そそそそれに、なにがしか勘違いされておられる様子! 我らはべつに昼間からこの女子にやまやまやましいことをしようなどとは────」
滝が流れる。
「ひとりを三人がかりで襲うなんて、ずいぶんじゃないか。それもこんな開けた場所で」
御剣は正しさに恭順する。
「僕がキミを助けるよ」
自信に満ち溢れた言動は、彼の信念と直結していた。
「おねがいします!」
「あっ、こらっ!」
男たちに囲まれていた少女は器用に包囲を抜け出し、途中で脱げた片方のスニーカーに構うことなく御剣を頼った。小さな身体で御剣の胸に飛び込み、顔をうずめて泣き縋る。
「たすけてください……あの人たち、私を見るなり群がってきて……いっぱいいっぱい卑猥な言葉を浴びせてきたんです……」
「ああ、わかった」
優しく頭を撫でてから、御剣は少女を背中に隠した。
「なあ、ボウズぅ。おまえに勝てる相手か?」
ダ