異世界詐欺師のなんちゃって経営術3
異世界詐欺師のなんコンちゃサルってテイ経営術ング3
【電子特別版】
宮地拓海
角川スニーカー文庫
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本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。
CONTENTS
序章『看板とエンブレム』
01『雨間にそれぞれ』
02『薬剤師と大怪我』
03『臨時雇用の従業員』
04『小麦のパン焼いちゃいました』
05『どうしようもないお人好し』
06『秘密にしてたこと』
07『無価値』
08『四十二区の領主代行』
終章『雨間に一緒に』
あとがき
異世界詐欺師のなんちゃって経営術3 電子特別短編
風邪の時は甘えたい ~ロレッタ、初のおかゆ体験~
四十二区の空にはどんよりと黒い雲が広がり、今にも一雨きそうな雰囲気だった。
にもかかわらず、ジネットは今日もヒマワリのような明るい笑顔を振り撒いている。
「今日も、楽しい一日になりますように」
「そんなもんに祈っても、ご利益なんかないぞ」
ジネットが祈りを捧げる『そんなもん』を、隣で俺も見上げる。
『陽だまり亭・本店』
看板だ。
どこの店も、入り口に金属のプレートを掲げてはいるが、看板──特に店名が入った分かりやすい看板は設置していなかった。
リフォームの際設置されたこの看板を、ジネットはとても気に入り、日に何度も見上げては、にこにこと嬉しそうに笑顔を見せている。
「はぁ……素敵ですねぇ」
……お前、陽だまり亭好き過ぎだろ。見つめる目線が怪しいぞ、このマニアめ。
「でもさ、ヤシロ」
俺たちの背後から、清涼感溢れる声が聞こえてくる。エステラだ。
「どうして『本店』なんだい?」
「本店は本店だろ?」
「『本店』と見ると、陽だまり亭の支店があっちこっちにあるみたいじゃないか」
「それを狙ってるんだよ。『本店』って言葉には、安心感があるだろう?」
見ただけで信用度がアップするのだ。たとえそれが勘違いだとしてもな。
「言葉の表現方法っていうのはいろいろなんだね」
半ば呆れたような表情で、エステラが息を漏らす。
「……店長。掃除、終わった」
「はい。ありがとうございます、マグダさん」
マグダが店から顔を出す。あいつはあいつ