マイダスタッチ2~内閣府超常経済犯罪対策課~
小学館eBooks〈立ち読み版〉
マイダスタッチ2 ~内閣府超常経済犯罪対策課~
ますもとたくや
イラスト 人米
目次
第一章 「心拍ドキドキが止まらない」
第二章 「新しいお金と腐った金持ち」
第三章 「ボール紙製の未来」
第四章 「ショッピングは命がけ」
第五章 「ゆがんだ王国」
第六章 「大洪水カタクリユスモス」
あとがき
第一章 「心拍ドキドキが止まらない」
外は凍てつくような寒さだったが、さっきから全力疾走しているせいで汗だくだ。
ったく。ジョギングは体に良いんだろうが、頭が良くて顔面偏差値も高くてイケメンでおまけに超がつくほど健康マニアの大学教授とだけは一緒に走るもんじゃない。
隣で走っている男を見て俺はつくづくそう思った。
「お金とはつまり、経済という体を巡る血液なのですよ。水町さん」
市来乙矢教授は、ジョギングのペースを落とさずに並走する俺に向かって言った。
「血液が体の隅々に行き渡ってこそ、健全な肉体が維持できるのです」
澄みきった朝日に照らされて、教授の真っ白な歯がキラリと光った。市来教授は四十歳で俺より一回り以上も年上だってのに汗ひとつかいてない。それどころか笑顔さえ浮かべている。
いっぽうの俺はというと、息は切れるし、足はもつれるし、体力ゲージはとっくに赤く点滅していた。ていうか、まさか聞き込みにきてジョギングに付き合わされるとは思わなかったし、付き合ったとしても、ここまでガチで一緒に走らされるとは思わなかった。
そんな俺のことなどまるで意に介さず、教授は走りながらの講義を続ける。
「その血液を、体中に巡らせる心臓の役割をしているのが、我々が今向かっている日本銀行、すなわち、日銀の役目なのです」
このまま永遠に走らされるんじゃないかと思っていた俺は、ようやくゴールの話題が出て少し安心して尋ねる。
「で、その日銀はどこに?」
「あそこです」
教授が顎をしゃくった。
首都高と外堀を隔てたその向こう側に日銀本店の地味な建物が見える。うへえ。まだ結構、距離あるじゃねえか。俺がげんなりしていると、むやみにさわやかな香りを漂わせながら教授はさらにスピードを上げた。
「こうして身体を動かし、心臓を活発に動かすことで、全身に血を循環させることができる。そうすれば我々の身体と同じよう