ハナシマさん 2
小学館eBooks〈立ち読み版〉
ハナシマさん2
天宮伊佐
イラスト ヤマウチシズ
目次
序章
一章 『破滅的な美女クラッシュビューティー』と異世界
二章 異世界に行ける方法の噂
三章 それぞれの異世界の終焉
終章
●──矢生比沙子──
ちぃんと、小気味よい音が聞こえた。
ソファから立ち上がり、矢生比沙子はキッチンへと向かう。
電子レンジの扉を開けて温まった冷凍パスタを取り出し、リビングへと戻る。
パスタの皿を置いて再びキッチンへ歩を進め、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
数十分ほど前から冷凍庫に突っ込んでいたので、缶はきんきんに冷えている。
プルトップを引くと、ぱしゃりと、またも小気味よい音が漏れた。
──新年明けて間もないっていうのに。四十過ぎた女が、独りコンビニパスタと缶ビールか。
茸と貝のパスタにプラスチックのフォークを突き刺しながら、矢生は自嘲の笑みを浮かべた。
──いったい人生の、どこで間違えたのだろう。
ビールを呷りながら自問する。
頭は良いと、昔から自覚していた。
一流の進学校に通い、一流の大学を卒業したまでは、自分の人生に間違いはなかっただろう。
──やっぱり、あれだな。
何度も繰り返してきた後悔を、矢生は今晩も反復する。
自分は──就職先を、間違えたのだ。
誰も彼もが愚かで、空気の乾いた即物的な職場だった。
十年以上にわたる貴重な時間の代価として得たのは、雀の涙ほどの退職金。その金を元手に、矢生は第二の生活を始めた。
ちらりと部屋の隅を見る。デスクに鎮座したパソコンのディスプレイには、矢生が自作したサイトが表示されていた。
──今日の訪問者は十二人。
その数字が多いのか少ないのか、矢生にはわからない。
●──草薙慎一──
リビングの中央で炬燵に潜り、携帯ゲーム機に熱中していたときだった。
「たとえば、即身仏というものがあるね」
姉の勾玉の言葉に、草薙慎一は顔を上げた。
「坊さんが衆生の救済を願い、厳しい修行の末に自らの肉体を木ミ乃イ伊ラとすることだよ」
蜜柑の入った籠を片手にリビングに入ってきた姉は、炬燵の上に籠を置き、慎一の向かい側から炬燵に入り込む。
「ふうん」
すぐに視線を落とし、難度Sのモンスター狩りを再開する。
「