異世界魔法は遅れてる!7
目次
序章 とり憑かれた女
第一章 八鍵邸にて
第二章 危急はいつも風雲で
第三章 それぞれの戦い
第四章 己が己であるために
終章 魔に堕ちグリード・し十人オブ・テン
序章 とり憑かれた女
現在、ネルフェリア帝国の帝都フィラス・フィリアにある八鍵邸の路地は、わずかな緊張で満たされていた。
それは戦いの前触れがもたらす緊迫でもなければ、言い知れぬ予感が誘う不気味さでもない。そう、たとえればこれは、召喚術により喚起した悪魔と対峙したときのような、そんな剣吞さとその視線の交差だろう。
しかしてその妙な空気の原因は、いま八鍵水明と対峙する少女にあった。
女子の制服の上下に、季節外れの赤いマフラー。手には指なしのグローブが付けられており、どこかこじらせた感のある出で立ち。艶のある長い黒髪を流し、愛らしい小顔にはくりくりとした大きな双眸が埋まっている。常ならば友人である安濃瑞樹――とするところだが、いまばかりはそうとは言えない違和感が彼女にはあった。
こちらを見据える目は、黒と金の虹彩異色オツドアイ。普段の彼女ならば両眼とも黒であるはずなのに、どういうわけか色違いで、いつもは優しげに曲げられる口もとが、いまはまるで悪魔の嘲笑さながらに、挑発気味に曲げられている。
いつもの彼女からは想像もつかないような変貌ぶり。
そう、いま水明の目の前にいるのは、イオ・クザミ。そう名乗る、何か、なのだ。
言葉を交わしたのはさてどれほど前だったか。水明とイオ・クザミが黙の中で視線をぶつけ合っていると、彼女はしびれを切らしたかのように呆れ顔を見せる。
「――それで、そろそろ我も通してもらえるのか?」
「……正直な話、お前みたいな不気味なヤツを家の中には入れたくはないな」
「む――?」
水明の言葉で、イオ・クザミの顔が険しくなる。それもそのはず、相手が正体不明なのだから水明の言い分も真っ当だと言えるだろう。
そんな彼に、イオ・クザミがやはり呆れ顔で何か言いかけると、
「が――そうも言ってられないのは確かだからな」
そう言って水明は、まるで彼女の出入りを認めるかのように、背を向ける。
胡乱な相手を入れるのは、確かに水明としても気が進まないことだ。だがそれではいつまでたっても話が進まないし、それにここで彼女を追い払っては情報を得られな