神話伝説の英雄の異世界譚 6
目次
序章
第一章 嵐の前の静けさ
第二章 闇に潜む噓
第三章 消えない憎悪
第四章 軋み始める世界
第五章 陽はまた昇る
終章
序章
大炎が燃え広がっている。至る所から幾筋もの炎が噴き出していた。
赤く濁った禍々しい戦火の嵐が世界を包み込んでいる。
そこに隠れ潜むようにして混じるのは嗅覚を狂わせるほどの異臭だ。
更に空が黒煙に覆い尽くされて、大地は血の海に支配されていた。
見渡す限り――それは果てしなく、どこまでも続いている。
地上に芽吹いた草花が容赦なく息絶えていく。その傍らでは原型を留めていない死体が焼け燻っていた。
無数の刀剣が突き刺さったその死体は、突如として馬蹄によって踏み潰される。
「誰か生き残ってる奴はいないのか!?」
馬上の兵士は脇腹から大量の鮮血を垂れ流しながら駆けていた。昨日まで共に笑い合った友たちの屍を踏み越えて逃げ続けている。必死の形相で辺りを見渡しても、目に飛び込んでくるのは死華が一面を覆い尽くす平原であった。
「くそっ! くそっ! なんで、なんで!」
これ以上は危険だと判断した兵士は、前のめりになって全力で駆けだした。
だが、人生とは無情なものだ。追い詰められた人間に奇跡など起こりはしない。
『敗残兵よ。どこへ逃げるというのじゃ?』
彼の前に現れたのは扇子を片手に、この戦場には似つかわしくない容貌を持ち、付け加えるならば、甚だしいほどに場違いな服装をした少女だった。
『妾に教えてくれぬか? どうして、そうも無様な姿で逃げることができるのじゃ?』
「ひっ!?」
『そう、恐れる必要はあるまい。妾は優しいからの。楽に殺してやるゆえ』
底抜けの笑顔で、残酷な言葉を吐き出した少女は、たった一歩だけ前に踏み出す。
それだけで兵士の心は壊れた。
度重なる死線を潜り抜け、幾度もの修羅場を乗り越えてきた兵士の芯が一瞬にしてへし折れた。生きるという希望を失い、顔を蒼白にさせて精神を崩壊させてしまう。
瞬間――、
「ひぁあ、あ、あああああァッ――!?」
爆発した。
比喩ではない。言葉の通り、何の前触れもなく兵士の身体が内側から破裂する。
耳障りな音が空気を震わせ、鮮血が肉片と共に地面へ大量に降り注いだ。
しかし、返り血の一つも浴びず、扇子を押し開いた少女