携帯電話俺3
小学館eBooks〈立ち読み版〉
携帯電話俺3
水市 恵
イラスト なぽる
目次
exit -they want to escape-
encourage -they know they have to go-
exchange -you need to lose something important-
encounter -ok,I knew that-
終章:entrance to somewhere-they have to return-
あとがき
砂原研究所は、都市部から離れたところに立地している。最寄り駅から車で三十分、深い森の中の道路を進んでようやくたどり着く。所員の大半は研究所が走らせる所員専用のバスで通勤する。
研究所の建物は、元々企業の保養所だったところを砂原が買い取って改装したものである。研究所建立の際、他にもっと好条件の物件がいくつかあったが、砂原はあえてこの場所を選んだ。
森の奥の辺鄙な場所に、都市から孤立するように拠点を据えた砂原。この決定に自分の性格がよく表われているな、と砂原は自己分析する。
砂原知樹は、幼少期から友人が少なかった。
彼は知的に極めて早熟な少年で、クラスメートたちの会話のレベルの低さにうんざりしていた。それも、難関の私立小学校の中にあって、である。学年相応の授業は彼にとって退屈だったし、休み時間にクラスメートと遊ぶことにも価値を見い出すことはできなかった。当時、砂原にとっての唯一の楽しみは、家の書斎に置いてある膨大な書物だった。興味は主に数学、医学、天文学、それに美術に向いていた。砂原は家に帰るとすぐにそれらの書物を開いて目を輝かせた。同年代の友人を作る時間があるなら、その時間を読書に回したい。彼は本気でそう思っていた。
ただし、学校にいる間は、それを表に出さないでクラスメートと付き合うことができた。「お友達と仲良くしましょう」という先生や親の言葉の意義は理解できなかったが、理解した振りをすることはできた。会話のレベルをあえて下げて、周囲との折り合いをつける。こうしておけば、先生や親からは何も言われない。砂原の友達付き合いは、単に大人たちを心配させないためだけのものだった。
この頃から、砂原は自分の顔に笑顔の仮面を貼りつけていた。自分の感情にかかわらず、誰に対しても楽し