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作者:鴨志田一
类型:少年向 书籍样本 日文
出版:2016-11-10(ASCII Media Works)
价格:¥650 原版
文库:电击文库
丛书:青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない(7)
代购:lumagic.taobao.com
青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない         1  その医者が何を言ったのか、梓川咲太にはまるで理解ができなかった。 「手は尽くしましたが……残念です」  言葉がきちんと聞こえなかったわけではない。手術室から出てきた四十代半ばの男性医師の口調はしっかりしたものだったし、小さな声ではあったが、静寂に包まれた深夜の病院の廊下にその声はわずかに響いていた。 「今、なんて……」  掠れた声。それは咲太が無自覚に発していた確認を求める言葉。  だが、濃い青色の手術着をまとった男性医師は答えてくれない。それもそのはずで、医師が話しかけている相手は咲太ではないのだ。  髪の長い四十代の女性。値が張りそうなスーツを着たその横顔には、咲太のよく知る人物の面影がある。同じ高校に通うひとつ上の先輩。咲太の恋人。大切な人であり、大事にしたい人。名前は桜島麻衣。  正しくは、麻衣がこの場にいるスーツ姿の女性に似ているのだ。医師から説明を受ける彼女は、麻衣の実の母親なのだから。咲太は前に一度だけ会ったことがある。その一度で顔を覚えていたのは、ふたりがよく似ているからに他ならない。 「娘は……麻衣は、本当に、もう……」  医師の反応を確かめるように、一言ずつ麻衣の母親の口から言葉がもれた。 「運ばれてきた時点で、殆ど手の施しようがありませんでした」  深々と男性医師が頭を下げる。  やっぱり、咲太には何を言っているのかわからなかった。日本語を話しているのはわかるのだが、意味が伝わってこない。理解することを、認めることを、心と体が拒絶していた。  次第に音のすべてが遠のいていって、耳の中でごわごわと雑音だけが聞こえるようになっていく。医者はまだ何かしゃべっているのに、その声が、その音が、意味のある言葉として咲太の耳に届けられることはなくなった。  耳鳴りだけがしている。そんな世界にいると、咲太はめまいのようなものを感じた。体の平衡感覚は失われて、どちらが前でどちらが後ろかもわからなくなってしまう。それに耐えるように、正面のわずかな一点を見ているしかなかった。  すると、次の瞬間、咲太の頰に熱い痛みが走った。  わずかに遅れて意識が呼び戻され、ぱんっという乾いた音を聞いた気がした。 「麻衣を返してぇ!」  悲鳴とともにぶつけられたのは憎悪を含んだ激情。その瞳は泣いていた。涙は一滴も出ていない