異世界ギルドの英雄師弟
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口絵・本文イラスト/せんむ
デザイン/AFTERGLOW
編集/庄司智
序章
カイル・クルーガー。
その名前を知らない人間は、このアルカザディア王国にはいないだろう。
伝説の冒険者、アズサ・クルーガー。
彼女は魔獣の頂点に君臨する七頭のドラゴン──七罪竜アルカンシエルの一頭を討伐し、文字通り世界を救った英雄である。百戦錬磨、一騎当千、天下無双、生涯無敗……そんな言葉をいくら並べても足りないと言われた最強にして美麗の女剣士。
そんなアズサが、たった一人だけ弟子を取った。
それがカイルだ。
彼はアズサの養子であり、体術、剣術、魔術……英雄の武技をすべて伝授され、彼女に「最高傑作」とまで呼ばれた、新進気鋭の冒険者。
だが、最初は誰もが彼の存在を疑っていた。
国民的なヒーローであるアズサが弟子を取ったというウワサはずいぶん前から流れていたが、誰もカイルの姿を見たことがなかったのだ。
早い話が何の根拠もない噂話ゴシツプ。アズサ・クルーガーが伝説なら、カイル・クルーガーは都市伝説だった。誰もその存在を信じなかったが──。
カイルは、実在した。
ある日突然姿をあらわした彼は冒険者ギルドと契約し、圧倒的な強さでギルド内にある序列をまたたく間に駆け上がった。
そのあまりの規格外っぷりを見た人々は賞賛と尊敬と期待をこめて、彼を《次ネ世ク代スのト英ワ雄ン》と呼び、都市伝説が本物の伝説になる日も近いとたたえた。
では、ここで誰もが抱いた疑問を解決しよう。
──どうすればあそこまで強くなれるのか?
答えは簡単。
カイルは厳しい修行の日々を送っている。
その修行の内容とは──。
「ご主人様。朝食の準備ができましたワン」
早朝。ベッドで眠っていた白髪の少年──カイルは澄み切ったソプラノで起こされた。
「タチアナか」
「はい。おはようです、ご主人様」
タチアナと呼ばれた紅髪の少女は、ぺこりと可愛らしくお辞儀した。
フリルやレースで飾られた黒いワンピースと純白のエプロンを身にまとって、はたから見ればご主人様に奉仕するメイドそのものなのだが。
「本日の朝食のメニューは、焼き立てのライ麦パン、ベーコンエッグ、スモークソーセージ、温泉卵