豊作出来! ~異世界農場へようこそ~
この本は縦書きでレイアウトされています。
CONTENTS
第1話 初めての草食
~ニギリメシとサンドイッチ~
第2話 森の野菜を探せ!
~チキンカツのオニギラズとマヨネーズ~
第3話 小さなノウギョウ
~ヤイバの冒険とラーメン作り~
第4話 ハタケの秘密
~初めてのブルーベリーケーキ~
第5話 森の査察と昔の仲間
~肉巻きナスの照り焼き~
第6話 黄金の草原
ダッシュエックス文庫DIGITAL
豊作出来!
~異世界農場へようこそ~
ゆうきりん
第1話 初めての草食
~ニギリメシとサンドイッチ~
「長よ……もはや、草食しかないと思います」
自分の言葉に、モウノ村の長たる女たちの顔に怒りと驚愕が広がるのを、暗がりの中でアレイははっきりと見た。
だが、驚きはしなかった。
頭より下に生えているものを食べるのは、聖典に『卑しいことである』とはっきりと書かれている。長い人生を、聖典の教えを守ってきた長たちにとって、アレイの提案は冒瀆に等しいものであろう。
「躊躇いはわかります」
長の中の長、長々が皺の深い口を動かす前に、アレイは言った。
「ですが、現実を見てください。町に出稼ぎに行った女たちからの仕送りは、ほとんど絶えて久しい。金がなければ、商人も肉は売ってはくれません。塩漬け肉も残りは僅かしかないじゃないですか。ここを捨て、他の村に身をよせ、奴隷のように働きますか?」
老婆たちは唸った。
善き人が口にしていいのは、頭の上に生る果実と鳥獣だけと聖典に記されている。
二十二年しか生きていないアレイでさえ、実際、口にするには激しい葛藤があった。長たちが躊躇うのも無理のないことではある。
しかし、背に腹は替えられない。
「俺は竜に呪われ、小獣しか狩れなくなってしまった。男衆がいない以上、取れる道が他にありますか? 長たちが他村を頼るというのなら、俺は子供たちを連れてここを出ます。あいつらの分くらいなら、俺でも何とかできる。蛙なら呪いも効果を発揮しない」
長たちは皺深い顔を見合わせた。
「……おぬしは食ったのか? 草を」
枯れ枝のごとき指をアレイに向け、長々は訊いた。
「はい」
どよめきが、狭く薄暗い小屋の空気をゆるがせた。祈りの印を結ぶ老婆もいた。
「何を食った……いや、草に名などなかった