永き聖戦の後に ストレイ·シープ
永き聖戦の後に
ストレイ・シープ
一郎
角川スニーカー文庫
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目次
序章 聖戦の終焉
第一章 英雄譚は語られず
第二章 仇敵からの依頼
第三章 墜ちたる英雄
第四章 魔と人の狭間に
あとがき
昔──街は生き物なのだと教わった。
石と鉄と煉瓦と木材で出来てはいても、それは確かに生きているのだ、と。
血の巡りの如く、人や物がその内を動き回り、息をするかの如く、出入りをする。古びた家屋は建て直され、荒れた道路は敷き直され、そうやって少しずつ変化をしながらも、街は街として己を維持し、時に成長しながら、人と共に生きているのだとジンゴ・ミネベは教わった。
『まるで虫と樹だね』と幼いジンゴが評すると、祖父は孫の卓見に呵々と笑った。
優しく賢かった祖父はもう居ない。
故郷を追われたあの日に、彼は死んだ。
恐らくジンゴの故郷も同じ日に死んだのだろう。深々と穿たれた傷口から流血するかの様に、とめどなく、殆どの人々が逃げ去ってしまったから。
この街も同じだ──とジンゴは思う。
故郷にはもう何年も戻っていないが、恐らく、こんな在り様なのだろう。容易く想像が出来る。出来てしまう。此処に来るまでに、ジンゴは同様の街を幾つも見てきたからだ。
「…………」
街は──陰鬱な滅びに覆われていた。
かつて五十万を超える人々が暮らし、昼夜を問わず賑わいを見せていたという、西方域きっての大都市が……今や、廃墟の様相を呈している。
人々の営みを示す灯火は消えて久しく、忙しなく道を行き来していた機車や馬車はあちらこちらに放置されたまま、再び動く事は無い。建物の多くは損壊し、補修も手入れもされぬまま、薄汚れ、亀裂が入り、ゆっくりと全てが荒廃し続けている。
「…………くそ」
ジンゴの前を行くセオドアから、ぽつりと言葉が漏れた。
「奴等……調子に乗ってやがる」
「……セオドア」
セオドアと並んで先頭を歩くトバイアスが、窘める様に小声で言った。
「黙れ。歩け。もう少しだ」
「……分かってる。すまねえ」
そう返しながら、セオドアは再び俯いて、視線を足下に落と