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作者:三上延
类型:少年向 书籍样本 日文
出版:2016-10-06(ASCII Media Works)
价格:¥637 原版
文库:电击文库
丛书:ダーク·バイオレッツ(5)
代购:lumagic.taobao.com
ダーク·バイオレッツ5 針の小箱    一 「こんにちは。今日は私、神岡町商店街に来ていまーす」  ちょっと棒読みで若い女のレポーターが喋っている。五月の暖かな昼下がり、アーケードは買い物客でにぎわっている。だが、ローカル・テレビ局の地味な取材など珍しくもないらしく、ちらっと振り返っては通り過ぎていくだけだ。 「すごくいい匂いがしますねー。ちょっと行ってみましょう」  レポーターはパン屋の店先に近づいていった。「新田ベーカリー」という古びた立て看板のそばに、白い作業着姿の男が待ち構えたように立っている。 「こんにちは。こちらのご主人さんですか?」 「はい。今、午後の分のパンが焼きあがったところなんです」  緊張気味の店主がいまひとつかみ合わない答えを言う──受け答えの内容はリハーサルの時にすべて決まっていた。この後は「よろしかったら、食べてみませんか」と勧めることになっている。 「よ……」  店主が力んで口を開きかけた時、打ち合わせになかったことが起こった──隣の店のドアが開いて、茶色い犬が現れたのだ。ちょうどレポーターたちとカメラの間で立ち止まる。 「あら、かわいい。かわいらしいワンちゃんですねー」  彼女は笑いながら言う。実際のところ、「かわいい」とほめるにはいささか体が大きすぎたが、動物と子供にはとりあえずそう言っておけば間違いはない。  犬の方は人間たちの存在などまったく無視していた。口いっぱいにくわえた何かに気をとられているようだった。  最初に異常に気がついたのはファインダーを覗いていたカメラマンだった。彼はその場にいる人間の中で、ただ一人本当に犬好きな人間だった。 (変わった犬だな)  と、彼は思った。普通の犬よりは耳も小さいし顎も短い。尻尾がやけに長く、先端だけにふさふさした黒い毛が生えていた。子供の頃からずっと犬は飼ってきたし、犬の種類にはかなり詳しい方だったが──こんな犬は見たことがない。  それに、口の端から赤いものがだらりと垂れ下がっている。 (何をくわえてるんだ?)  と、彼は内心思った。 「お隣のワンちゃんも匂いにつられて出てきたみたいです」  レポーターはそつなくフォローした。パン屋の店主は内心首をかしげていた。隣の店は古くから神岡町にある骨董屋で、犬など飼っていなかったはずだ。  彼はそちらの方を見る。「木田古美術店」と書かれ