魔法医師の診療記録4
小学館eBooks〈立ち読み版〉
魔法医師メデイサン・ドウ・マージの診療記録4
手代木正太郎
イラスト ニリツ
目次
序 章〈渚~人魚病~〉
第一章〈浅瀬~棘皮病~〉
第二章〈沖~群体病~〉
第三章〈海底~矮雄病~〉
第四章〈深海~全能病~〉
終 章〈陸地~海からの帰り~〉
序章〈渚~人魚病~〉
燦々たる太陽が大地を嘗めている。
雲一つない無限の蒼穹の下には、果ても知れず広がる膨大な砂の世界があった。
その灼熱の大地をラクダに跨った隊列が、実に緩慢に進行しているのが見える。
地平線上に揺らめく蜃気楼は、彼方に林立する赤い岩山を歪め、幻のごとく映していた。
──インスマ砂漠。
そう呼ばれるこの地は、大陸の南東に位置し、世界で最も広大な砂漠だ。
今、この果てしない砂漠をラクダの隊列を組んで進む男ら──日除けの鍔広帽子を被ったその逞しい男たちは、西方諸国より訪れた異邦人たちである。
驚くべきことだが、この不毛の地は、途方もない昔、海洋の下にあった。
それが、地殻変動によって海底が隆起し、このような砂漠となったのである。
その証拠に砂漠に散在する岩山の地層からは、夥しい数の海洋生物の化石が発掘されている。
特に近年、原始的な鯨偶蹄目の化石が発見されたことから古生物学者の注目を集めていた。
また、古生物学者のみならず考古学者にとってもこの砂漠は重要な意味を持った土地である。
二千年ほど前、この砂漠には、大きな勢力を持つ古代文明が存在していた。古代インスマ文明と呼ばれ、クトールという水の神を崇拝し、たいへん栄えていたのだが、ラー聖教の勃興、その勢力の拡大によって聖庁より幾度も攻められ、やがては滅んでしまっている。
その遺跡が、この砂漠の各所に残されているのだ。発見されているものだけでも数十はある。
ラクダの隊列は、そんな化石群や古代遺跡を求め遠い旅をしてきた調査団だったのだ。
「おや?」
調査団の男の一人が、声をあげた。
「あそこに何か見えないか?」
他の者たちも目を凝らし、不思議そうに男の指し示した方を眺める。
五十メートルほど先。砂の他には何もないその一角に確かにぽつりと何かがあった。
「人か? ここからじゃ、よくわからないな?」
「ちょっと、見て来る」
と、数人の男が