后退 返回首页
作者:鳩見すた,アマガイタロー
类型:少年向 书籍样本 日文
出版:2016-10-07(ASCII Media Works)
价格:¥670 原版
文库:电击文库
丛书:この大陸で、フィジカは悪い薬師だった(2)
代购:lumagic.taobao.com
続 この大陸で、フィジカは悪い薬師だった      1  朝には耳たぶがしんと冷える時節になったが、天候にも恵まれて昼の旅路は清々しい。  緑萌える丘で羊と戯れ、遠くからこちらをうかがうトナカイに手を振り、アッシュは旅連れとともにトラパット丘陵地帯を横断していた。 「おお……? おお……!」  見晴らしのよい高台で思わず足を止める。眼下に広がっているのは、赤や金色の巨大な方形の集合体──見渡す限りに連綿と続く、極大のモザイク模様だ。 「すごい。あれ全部ブドウ棚なのか」  収穫期を過ぎたブドウ畑が、思い思いに色づいて形成する自然のステンドグラス。この雄大な景色を眺められるのは、きっとこの時期のこの土地だけだろう。 「素晴らしい景観だね。フィジカは見たことあった?」  感動を分かち合うべく声をかけたが、連れの少女は反応を示さない。  さては花よりマンゴーの年頃かと、話題をそちらに変えてみる。 「ほら、あそこに村があるよ。泊まればおいしいワインが飲めるんじゃないかな。きっとフィジカの好きなパイプワインもたくさんあるよ」 「私に話しかけないで!」  いきなりの拒絶に面食らった。 「ど、どうしたのフィジカ?」 「別にどうもしない。私とキミは敵同士。私は教会の犬となんて話したくないから」  つんとそっぽを向いたアッシュの旅連れ──フィジカが言ったことは確かに正しい。  この大陸で、フィジカは《悪い薬師》だ。  人を癒やす薬師であるのに、まったくもって人を診ない。どころか教会が定めた悪しき害獣ばかりを治療する、数多の悪名を持つ異端者だ。おまけにそんな呼ばれ方を嫌い、《美少女すぎる薬師》なんて二つ名を自分から吹聴する図々しさも併せ持つ。  エイル教会所属の巡礼戦士──角守であるアッシュからすれば、フィジカは本来即時拘束しなければならない相手だ。 「何をいまさら……。僕はきちんとフィジカの『真実』を知ってるよ」  自然の摂理を担う女神パナケイアの使徒──それがフィジカの正体だ。  害獣を倒すべしという教会の教えは間違っていないが、すべてを滅ぼそうとすれば巡り巡って人も滅ぶ。大陸の末永い繁栄には、《摂理の担い手フイジカ》の存在が必要不可欠だ。  しかしエイル正教が遍く広まるこの大陸では、フィジカはただの異端者でしかない。ゆえにアッシュは角守でありながら、フィジカとともに旅をしている。