やっぱり死神が無能なせい
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口絵・本文イラスト/藤真拓哉
デザイン/團夢見(イメージジャック)
1 ラノ子、実印を見つける
零時を回ったころだ。
おれは夜食でも食べようと、台所に入った。
すると、幼女が目に入った。
その幼女、小脇にカップ焼きそばのベヤングを抱えていた。蜂蜜色の髪は綿雲のようで、碧い瞳は神秘的に輝いている。
そんな幼女が、神妙な面持ちで電気ポットを見つめているのだった。
「ラノ子。お前、人様の台所でなにをやっているんだ」
おれに声をかけられ、ラノ子はハッとした顔で、こちらを見た。「コーイチ。ラノ子のベヤング友。ラノ子は自立を志し、一人でベヤングを食べられるよう、いま想像を絶する戦いを繰り広げている」
「なにと?」
ラノ子は電気ポットを指差した。
「コレと」
電気ポットと想像を絶する戦いを繰り広げている、この幼女こそが、死神なのだ。
しかも、ただの死神ではない、死神大王だ。
死神大王であるラノ子は、3週間前、おれのもとにやってきた。
かの〝ガンダーラ〟へ借金返済に出発したら、間違っておれのもとにやってきたという。方向音痴にも程があるな。
だが、そのおかげで、おれは九死に一生を得た。
というのも、そのとき、おれは天命を定められていたのだ。天命を定められた人間は、死神に魂を狩られる運命にある。おれも例外ではなく、おれの魂を落札した死神に、魂を狩られるところだった。
もちろん魂を狩られれば、死あるのみだ。
しかし、魂を狩られる事態を阻止できる唯一無二の手段があった。それこそが、余生制度。天命を定められた者に、余生を与えよう、という処置だ。
余生さえ得られれば、死神に魂を狩られることはなくなる。
この余生を得るために、おれはラノ子から与えられた試練を乗り越えた。そして、正当なる権利を得たおれは、ラノ子に余生を要求した。
ラノ子は『挟間孝一』の人命録、その余生の欄に、死神大王の実印を捺した。
こうして、おれは余生を得たのだった。めでたし、めでたし。
となるはずが──
ラノ子が捺したのは、実印ではなく、宅配便とか用のただの判子だったのだ。肝心の実印、死神大王の権力を発揮する実印を、ラノ子め、なくしていやがった。
かくして、