リバース·ブラッド1
小学館eBooks〈立ち読み版〉
リバース・ブラッド 1
一柳 凪
イラスト ヤス
目次
序章 in rain
i monologue
ii paramedicine
obsession.
iii mirror
obsession..
iv surface
obsession...
v hydrokinetics
終章 in rain
§ 参考文献 §
§ あとがき §
分厚い膜のなかを走るみたいだ、と少女は思った。
大気を緩やかに覆う雨のなか傘も持たず、内心の苛立ちを紛らすように少女はひとり駆けていた。
はずむ息も気にせず、制服が、鞄が濡れるのにもかまわない。
そんなことより、タダ早く家に帰り着きたかった。
逢魔が刻というやつだろうか、天候のせいもあって既にあたりは昏く、人通りもない。
アスファルトのうえを硬い跫音が孤独に響く。ぱしゃぱしゃと薄い水音だけが儚く後を追った。
道の左右で、疎らな灯りがゆっくり後方へ流れてゆく。ボヤアッと曖昧に滲む光がやけに遠く感じられて、少女は、意識するともなく駆ける足を速めた。
なんだか息苦しくて、軀が重く感じる。こまかな雫が肌にまとわりついて邪魔だ。
学校でちょっとしたいざこざがあって、少女はいつになく気を荒立てていた。
早く家に帰って熱いシャワーでも浴びたい。そうすればいくらかスッキリするだろう。胸のなかの悩みも苛立ちもモヤモヤした気持ちも、全部ひっくるめていっそ綺麗に洗い流してしまいたい。
そんなことを考えながら走っていると、不意に、道端の茂みから物音がした。
気づかなければ良かったのかもしれない。
あるいは、気づいても無視を決めこんでいれば。
何でもないことだったはずだ。
「……?」
なのに少女は、持ち前の好奇心の命ずるまま足を止め、茂みの方へ向き直った。やっぱり、雨音に混じって何か聴こえる。
少女は茂みに眼を凝らした。暗くてよく見えない。
一歩。
踏みだした時点で、少女は既に囚われていたのかもしれない。
また一歩……恐るおそる、でも誘われるように、音のする方へ近づいていった。雨滴が頸すじに後ろ髪を張りつかせて気持ち悪い。
近づくにつれ、次第にハッキリと聴こえるようになる。生理的に厭な音だった。