リバース·ブラッド4
小学館eBooks〈立ち読み版〉
リバース・ブラッド 4
一柳 凪
イラスト ヤス
目次
i detective
ii game
obsession-.
iii dialogue
obsession-..
iv fractal
§ 参考文献 §
「ここかな……」
右手の紙切れに視線を落とし確認してから顔を上げ、鴫沢は呟いた。
商店街の外れの、細い路地に入りやや奥まった場所、二つの雑居ビルに挟まれてその店舗はあった。
小さな店で、賑やかな雑踏とも無縁に、そこだけ時間のなかから取り残されたふうにヒッソリとした佇まいだった。
『モリトキ時計店』
と小綺麗な飾り文字で書かれた看板が掛けられている。『時計』の『日』の部分が円形になって、時計の文字盤があしらわれたデザインだ。
人目を惹かぬ風情で、意識して訪ねてきたのでなければ気にも留めず通り過ぎてしまったことだろう。
硝子ガラス張りのドアの向こうに、店内の様子が透けて見える。
の左手には、先日皆鶫島を訪れた際に姉の有菜から手渡された懐中時計が握られていた。鏡に映したように文字盤が左右さかさまになっている時計。
母世織の形見であるその品を修理したいのだと、そんなことをピザショップ『毘沙門』で葛城呉羽に話していると、店長の毘舎利爾来が声をかけてきた。なんでも知り合いがアンティーク時計の修理を行っているのだという。爾来は虚無僧めいた見かけによらず面倒見の良い性格らしく、店までの地図を描いてくれた。
爾来の知人ということで若干の不安が残るものの、他にアテがあるでもなし、はとりあえずその店を訪れることにした。
そうして、爾来の描いた案内図を頼りにここまでやってきたのだ。各種目印を表わす記号がいちいち謎めいていて、非常にわかりづらい地図ではあったが、何度も道に迷いそうになった挙句どうにか辿りつくことができた。
緊張を覚えつつ、はドアを控えめに押し開けた。
狭い店内を埋め尽くす時計、時計、時計……大小さまざまな時計たちの音が合奏となって来客を包みこむ。
重なって響いてくる針の音に圧倒されるものを感じながら、なかに入った。昼下がりの店内に客の姿はなかった。
カウンターに一人の少女が座っていた。
小さな軀が、背を丸めているものだから余計にちまっとして見える。