リバース·ブラッド2
小学館eBooks〈立ち読み版〉
リバース・ブラッド 2
一柳 凪
イラスト ヤス
目次
i lost
ii cheat
iii picturesque
iv retina
v funhouse
§ 参考文献 §
§ あとがき §
人が──消えるのだという。
鴫沢がその噂を耳にしたのは、七月上旬のある日のことだった。
長らく続いた梅雨が噓みたいに空はカラリと晴れあがり、待ち侘びたはずの陽射しはむしろ厭になるくらい強烈で、連日うだるような暑さが続いていた。
午後の教室には化学教師御薗生日鞠の麩菓子のような声がだるだると流れて、生徒たちの集中力を根こそぎ奪ってゆく。
教壇に立ち、涼しげな顔で参考書を読みあげる日鞠とは対照的に、机に向かう生徒の大部分はグターっとうなだれていた。黒板に書きつけられた複雑な構造式も、緩くなった頭には奇妙な呪文のごとく映る。
窓を開け放していても風ひとつ吹きこむ気配はなく、とにかく暑くてたまらない。
「ぅあづー……」
たまりかねたのか、の斜め後ろの席で結城あざみが呻きを洩らした。机のうえの、開いた
ノートにパタリと顔を伏せる。
どうにか日陰に入っているでさえ、ジッとしていても汗ばんでくる。窓際の、陽射しをマトモに浴びる席のあざみはたまったものではないだろう。何もかも放りだしたくなる気持ちもわからなくはない。
板書をノートに書き写している途中、不意にちょいちょいと硬く尖ったものが背に触れるのを感じて、はチラリと後方に視線を流した。あざみが、机から前方に垂らした手に握ったシャーペンの先でつついてきたのだ。
「何……?」
教壇の日鞠を警戒しながら、声をひそめてあざみに尋ねる。
「何ってーか、この暑いのによっく律儀にノートとる気になるわね」
感心したような呆れたような、複雑な口調だ。
ノートのうえで傾いたあざみの顔は、心底ウンザリしたといった表情だった。左手ではたはたと顔を扇いでいるが、勿論たいした風が起こせるはずもなく、せいぜい気休めといったところだろう。
「律儀とかの問題じゃないけど……。化学は結構好きだし」
「うらぎりものー」
恨みがましげな声を投げてくる。
「裏切りって何だよっ。結城もちゃんと聞いといた方がいいって。もうすぐ期末試験だし」
「ふーんだ、どー