いつかの空、君との魔法
【電子特別版】いつかの空、君との魔法
藤宮カズキ
角川スニーカー文庫
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、
本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。
目次
序章
第1章
第2章
第3章
第4章
終章
あとがき
電子特典イラスト
箒が一本落ちていく。
それは曇天に消えた彼女のものだったはずだ。
そうとわかってはいても、できることは何もない。
彼女を助けに雲中に飛び込むでもなく、無力感と一緒に箒の柄にしがみついているだけ。
でも仕方がない。
だってこわいのだ。
目の前に広がる暗くて黒い雲の海が、彼女が姿を消してしまった薄暗さが、ただただこわくて堪らない。
涙は流す。
恐怖にも震える。
なのに、一粒たりとも勇気を奮い起こすことが出来ない。
みじめさとくやしさとこわさが混じり合い、どうしようもない無力感を胸に抱かせる。
肌が汗ばみ、じっとりと湿っていく。
それがどうしようもなく気持ち悪く感じる頃には、意識は浮上し夢から覚める。
「あー……」
あれは幼い頃の記憶だ。
助けたいのに助けに行けなかった幼馴染の少女。雲の中できっと泣いていたであろう少女。あの時から彼女との間には、手を伸ばした程度では届かない距離が開いてしまった。
「……揺月」
もうずっと昔のことなのに、いつまでたっても拭うことのできない情景に、気分が沈み、それでようやく目が覚めた。
べたつく汗と最悪の夢見。それらがカリム・カンデラの迎えた今日の始まりだった。
▼
「洗い物、自分でやりなさいよ?」
「あー、うん」
生返事をしつつ、カリムは手にしたパンにかじりつきもそもそと食べていく。目覚めがいまいちだったせいか、どうにもしゃっきりとしない。
『ここ数日でダスト層雲の厚みは増しており、精霊指数は減少傾向となっています。アリステルにお住まいの皆さんは精霊欠乏に注意してください』
今日の夢見が悪かったのはこれか、とぼんやりした頭で考える。
カリムが見つめる先、遠オーロ見ラビジ鏡ヨンに映し出されるニュースではキャスターが指し棒を使って、ここ数日のダスト層雲の様子と精霊指数についての情報を伝えている。前日比マイナス2