魔法使いと僕 1
目次
1 名もなき村にて
2 耐えがたき辺土の商都
3 生きているだけで
4 魔法使いと僕
革の長靴を履いた足が砂利道を踏むたびに、小石がこすれあってかすかな音を立てる。
あれだけ大きな背囊をしょっていながら、彼はよろめくどころか前屈みになってさえいない。ときどき背囊の肩紐を押さえるくらいで、うつむきもしなければ、雲一つない空を仰いでため息をつくこともなく、淡々と歩きつづける。
それにしても、小柄な彼には不釣りあいな背囊だ。ただ大きいだけじゃない。つめこみすぎて、はちきれんばかりに膨らんでいる。口の部分から飛びだしているあの棒きれはいったい何だろう。それとは別の棒、あれはひょっとして鍋の柄か。楽器とおぼしき物体の一部もはみだしている。
見るからに重そうな背囊だ。重くないわけがない。それなのに、薄汚れた外套をしっかりと身につけ、日除けのために抜かりなくフードを被っている彼の足どりは、いっこうに乱れない。よどみなく確かで、一定の歩幅を保っている。
乾ききった辺土の大地に風が吹くと、赤茶けた塵が舞う。ちらほらとこびりつくように生えているねじくれた雑草や灌木も、砂や埃のせいで茶色がかって見えた。
砂利道は起伏をさけてゆるやかに蛇行しながら、どこまでも果てしなくのびている。
巨大な荷物をその背に負い、たった一人、始まりも終わりもない旅をしているかのような小さな旅人が、ふと足を止めた。
道から外れた草むらのほうへ目をやる。フードを外すと、櫛でとかしたことなど一度もなさそうな灰色の髪と、若い顔があらわになった。少年と呼んでもよさそうな目鼻立ちだが、妙に老成して見える。血色が悪い土気色の肌と、わずかに黄みを帯びている冷たく薄い色をした瞳のせいだ。
旅人は少しだけ唇の片端を動かした。彼の視線はまだ草むらに注がれている。たぶん、女だろう。草むらに女が一人、倒れている。
行き倒れだろうか。そうだとしたら、倒れたてだろうし、めずらしい種類の行き倒れだ。ひとはたいてい横向きかうつぶせで行き倒れるものなのに、その女は仰向けに寝ていて、へその上あたりで両手を組みあわせている。きっちりと目をつぶっているし、まるで寝台に身を横たえて安らかに眠っているかのようだ。
「……でも」
旅人は張りがないのに澄んでいる低い声で呟いた。
「あんなとこで眠った