聖樹の国の禁呪使い 7
目次
序章
第一章 生徒会長と風紀会長
第二章 固有術式
第三章 彼女の決意と、聖武祭の客人たち
第四章 終ノ十示軍
第五章 殲滅と凶
終章Ⅰ
終章Ⅱ
イラスト/〆鯖コハダ
序章
「――朝でございますよ、クロヒコ様?」
羽毛みたいな柔らかな声が、俺の耳と意識を撫でた。
「ん――」
薄っすら右目を開く。
「あ……おはようございます、ミアさん」
人が心地よく目覚めるには自然の音や人の声が適しているらしい。
しかし、この世界に来る前の俺をこんな優しい声で起こしてくれる人はいなかった。
毎日、目ざまし時計のけたたましい高音で起きていた。
起こし方一つでこうも目覚めの気分が変わるものかと、この世界に来て思い知らされた。
「はい、おはようございます」
菫色の髪をした、狼の耳を持つメイド服姿の少女――ミア・ポスタ。
彼女は、俺が身を寄せているここ聖ルノウスレッド学園のトップ、マキナ・ルノウスフィアの侍女である。おっとりした雰囲気の持ち主だが、その仕事ぶりに関しては優秀な能力を持った人だ。
ミアさんは自ら進んで俺の生活の世話をしてくれている。もちろん彼女には侍女としての仕事があるので、毎日世話をしてもらっているわけではない。
それでも彼女には本当に助けられている。
俺は眠りが深いため、一定の時間を過ぎたらこうしてたまに起こしてもらっていた。
「くすっ――お目覚めのご気分は、いかがですか?」
垂れた髪をゆったり払いのけながら彼女が前かがみになると、たゆん、とその豊かな双丘が揺れた。布地で包み込んでいても、その豊満な胸の自己主張は止まないようだ。
頰に熱を感じ視線を逸らすと、ミアさんが小首を傾げた。
「あの、クロヒコ様?」
「わ、悪くはないです……」
「はい、それなら大変よろしゅうございました。あ、ご朝食はもう準備ができておりますので。すぐにご用意できます」
「は、はい。ありがとうございます」
目覚めが心地よいのは確かなのだが、起きてすぐこんな可愛い女の子が目の前にいる光景は未だに慣れない。
それこそ自分はずっと夢を見ており、まだ夢から覚めていないのではないか――そんな想いに囚われることもある。
本当の俺はまだ日本と呼ばれていたあの国のどこかでずっと眠っていて、異世界であるこのユグドラ