されど罪人は竜と踊る18 どこかで、誰かの歌が
小学館eBooks〈立ち読み版〉
されど罪人は竜と踊る18
どこかで、誰かの歌が
浅井ラボ
イラスト ざいん
目次
間 奏 生まれいずるもの
七 章 交わされる楽譜
八 章 微笑みは月光に映らない
九 章 昨夜、あなたと歩く夢を見た
十 章 童話の呪詛
十一章 狼たちの咆吼
十二章 声を嗄らして、君に歌うよ
終 章 どこかで、誰かの歌が
あとがきっぽい
間奏 生まれいずるもの
あかいくらい。
あかるい。
またくらい。
あかるくなった。ようやくことばがみつかった。ちかちかするひかりのせかいでようやくぼくのいしきができてきた。
いきている。そう、生きているんだ。
だけど、僕は否定されていた。そんなバカなことがあるか。ここにいる。ここにいるじゃないか。
僕は必死に主張する。ここにいるんだと。すでに呼吸も忘れ、血流は廻らず、心臓も動かず、脳の神経系の発火もないが、存在している。
だけど誰も認めてくれない。誰とも触れあえない。この世界は広大で、楽しいことや嬉しいこと、怖いことや恐ろしいこと、なんでもある。
だけど、愛だけは存在しない。この世界に人は住めない。僕は生きられない。
私は思考する。計画する。人形と童話を携えて、死んだ厩は凍えさせた。あとは破片を集め、凍てついた門を再起動させる。
私は門を潜る。
そのとき、名前のない誰かではなく、私たちとなれる。
そうすれば、そうすればきっと。
七章 交わされる楽譜
人は、痛みと恐怖で、なにも決断しないという決断をする。
以降の一生を使って、そのときの臆病な自分を、心中で数千数万数億回と殺害することに費やす。
フーシェ・フースコー「息を吐くように後悔していく」同盟暦八二年
一面の黒。前方には闇。
右には闇。反転して左を見ても闇。上と下も同じように闇が広がる。目を凝らしても、どこまでも闇が続く。
俺は椅子に座っていた。確認すると背もたれと肘掛け、座面も石でできていた。椅子というより、台座にすら思えてくる。
周囲が闇であれば、光の反射が存在せず、自らや椅子など見えていないはずだ。どういうことだ?
椅子に座っているが、足は大地に届かない。椅子ごと宇宙空間に浮いているかのようだった。足で椅子の下を探ると、脚の裏に触れた。本当に浮遊