偽る神のスナイパー2
小学館eBooks〈立ち読み版〉
偽る神のスナイパー 2
水野 昴
イラスト まごまご
目次
OP/Last wish ‐遺志‐
01/Calamity ‐災禍‐
02/Revenge ‐復讐‐
03/Chase ‐追跡‐
04/Salvation ‐救済‐
EP/Will ‐意志‐
あとがき
OP/Last wish ‐遺志‐
古びた木造の礼拝堂は、冷たい月明かりと、むせ返るような血臭で満たされていた。
礼拝堂だけではない。その教会で、鮮血に塗れていない箇所はどこにもない。
寝室も、食堂も、中庭も、地下室も──仲間たちとの温かな思い出に満たされたそれらの場所には、冷たい死と、骸と、静寂だけが横たわっていた。
「お願いです……誰か、返事をして下さい……」
ひとり無事だった少女は、状況もわからぬまま、不安と恐怖に身をすくませつつ教会の中を彷徨い歩く。返事などあるはずもない。
幼くして愛する両親を奪われた少女が、ようやく手に入れたふたつ目の《家族ペルヘ》。
それはたった一夜にして、無惨に踏み躙られ、跡形もなく破壊されていた。
その時、少女の耳にふと聞きなれた穏やかな声が響いた。
「愛情には正しき愛情を。悲哀には正しき悲哀を。憎悪には正しき憎悪を示せ。魂の救いは、他者の心を正しく理解した、その向こう側にだけしか存在しないのだから──」
その地獄を生み出した張本人は、天井に嵌め込まれた硝子ガラスから差し込む僅かな月明かりに照らされて、返り血に濡れた姿のまま凜然と救いを唄う。
「……スノウ?」
殺戮者の足下では、その教えを皆に授けたひとりの女性が、瞼を開けたまま息絶えていた。
◇
「────!」
ベッドから跳ね起きた椚クヌギ茴ウイ香カは、荒い呼吸を繰り返していた。全身が嫌な汗でべっとりと濡れている。昔のことを夢に見たのは久しぶりだった。
「──お風呂、入らないと……」
苛酷な訓練から戻って早々、茴香は着替えも終えぬまま、いつの間にか泥のような眠りに落ちていたのだ。
湿った衣服と下着をベッドの上に脱ぎ捨て、バスルームでシャワーを浴びる。
緩やかな曲線を描く裸身を、熱い水滴が滑り落ちていくたび、嫌な記憶が洗い流されていくような気がした。
曇った鏡に映る茴香の貌は、凍り付いたような無表情だっ