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作者:持崎湯葉,はねこと
类型:少年向 书籍样本 日文
出版:2016-07-22(集英社)
价格:¥600 原版
文库:DashX文库

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その10文字を、僕は忘れない この本は縦書きでレイアウトされています。 Contents 一章 友達になるのに必要なこと 二章 恋人になるのに必要なこと 三章 幸せになるのに必要なこと 終章 春を愛する君へ ダッシュエックス文庫DIGITAL その10文字を、僕は忘れない 持崎湯葉    一章 友達になるのに必要なこと  晴天を疎ましく思うようになったのは、いつからだろう。  早く起きろ、外へ出ろ、真面目に生きろと上から言われているようで、癪に障る。 「……低血圧なんです、低血圧……」  目覚まし時計は九時すぎを示している。すでに一限ははじまっていた。  なのでもうそろそろ寝床からおさらばしたい。  しかし仕方がない。いつにも増して起きたくないのだから、仕方がない。 「もすこし寝たら、起きるから……」  そう呟いたが最後、じんわりと意識が薄れていく。  起きればそこは、別世界。  世はまさに、正午。 「……サボるか」  高校二年目を迎えてから早二週間。  遅刻の数が二桁になろうとも、欠席は一度としてなかった。  しかし今日、ついに解禁されてしまった。今期初のサボタージュである。  ささやかな罪悪感から、午後は家事に全力を注ぐ。  母とふたりで暮らす2DK、日頃の感謝も込め、隅から隅まで磨き上げた。あっという間にキッチンもトイレも母の下着もピカピカである。 「……散歩でも行くか」  仕事のなくなった昼下がりの我が家はどこか居心地が悪い。  逃げるようにマンションを出た途端、春風が桃色の花びらをどこかへ連れていくのを見た。 「桜、今年ちゃんと見てないかも」  最近多くなったひとり言、するりと口から流れると、足は自然と動き出す。  のんべんだらり歩くこと二十分。我が物顔で車道を行く都電を歩道橋から見下ろし、渡りきればそこは都内でも有数の桜名所。  さあ花見、いざや花見、と言いたいところだが。 「……だよなあ」  並木の花は、どれもすっかり散り落ちている。これにはうなだれるしかなかった。  そんなとき、ポケットの携帯が震えだす。  映っているのはメッセージアプリ。差出人の欄には、上原恵成という名前が表示されている。数少ない友人のひとりだ。友人……だよな? 「せめて学校には来いよな」  よかった、友人だ。このたった一行に俺への愛が