最果てのパラディンII 獣の森の射手
目次
序章
一章
二章
三章
四章
五章
終章
薄曇りの太陽は西の空にあったけれど、見上げてみても暖かさは感じなかった。
流石に凍傷を心配するほどではないけれど、じわじわと染みるような寒さは、地味に辛い。
神殿に居た時から分かっていたけれど、この辺りの気候は寒い時期でも雪がまれに降り、軽く積もる程度だ。今もえらく冷えるだけで、雪の気配などかけらもない。
マントをかき寄せて、ひたすら石畳の街道沿いの土の上を歩く。石畳は既に経年劣化で凸凹だらけだ。下手に道の上を歩くと、足を取られそうで逆に危ない。
「うー……寒いなぁ」
――吐く息が、ふわりと白い。
やはり常識的な観点からして、冬に出発は失敗だっただろうか、と思う。
……僕、ウィリアム・G・マリーブラッドは、両親の魂をかけたあの不死神との決戦の後、ほんの数日で神殿を出立していた。
決戦は冬至の日だった。つまりまだ、冬のさなか。……正直、あんまり賢い行いではないと自分でも思う。
けれど……マリーとブラッドのお墓を造って、葬儀を済ませて。その後、あの居心地のいい神殿で春を待っていたら、僕はあそこに居続けてしまいたくなるんじゃないだろうか。マリーとブラッドのお墓を守って。ガスを説得して、ずっとあの街に封じられた悪魔デーモンたちの《上王》の、封印の守護者として生きてゆく。
それは僕にとって、いけないと知りつつ、どこか抗いがたい魅力のある考えだった。
でも、家族の緩やかな許容のもとに引きこもるという行為は、前世と同じだ。……何も行動しないで、足を止めていたら、この考えはきっと膨らんでしまう。
だから――悩まず信じて、前に出る。
「…………」
とはいえ勿論、気候にやられて野垂れ死にだけはしないように十分注意している。最悪、いったん神殿に引き返すことも考慮に入れているくらいだ。
……格好つけて出てきたのでガスには笑われそうだけれど、もし引き返すことになったとしても落ち込むことはない。予備調査だったと思えばいいのだ。道の状況や野営に使える場所なんかを確かめておいて、改めて春に出発すればいい。閉じこもって何もしないでいるより、その方がずっと有益だ。
というわけで、寒さをこらえつつ旅荷物を担いで、時に歩き、時に小休止を挟み、夜になったら野営をしながらひたすら歩く。