ありふれた職業で世界最強 4
目次
第一章 ハジメ、○○になる
第二章 忍び寄る影
第三章 モブの死力
第四章 問われる真価
第五章 無能の無双
終章 狂気と迷いと這い寄る銀の魔手
番外編 白崎香織十七歳 特技:突撃
【中立商業都市フューレン】
あらゆる物と人と思惑が入り交じる世界最大の商業都市は、相も変わらず盛大な活気で満ち満ちていた。都市の周囲を丸ごと囲む高く巨大な壁の向こうからは、相当な距離を隔ててなお、都市内の喧騒が外野まで伝わってくる。
門前にできた、もはや【フューレン】の名物と言っても過言ではない入場検査待ちの長蛇の列――その列に並ぶ観光客や商人、冒険者達は、その喧騒を耳にしながら、気怠そうに、あるいは苛ついたように自分の順番が来るのを待っていた。
そんな入場検査待ちの人々の最後尾に、実にチャライ感じの男が、これまた派手な女二人を侍らせて、気怠そうにしながら順番待ちに対する不満をタラタラと垂れ流していた。
取り敢えず、何か難しい言葉などを使っておけば賢く見えるだろう、という浅はかさを感じさせる雰囲気で、順番待ちをさせる【フューレン】の行政官達の無能ぶりをペラペラと話す姿に、周囲の商人達が鼻をピクピクさせながら笑いを堪えているのだが、彼自身も女達も、気がついてはいないようだ。
と、そんな、無自覚に周囲へ失笑を提供しているチャラ男の耳に、突如、聞き慣れない、まるで蒸気を噴き出すようなキィイイッという甲高い音が微かに聞こえ始めた。
最初は無視して傍らの女二人に気分よく持論を語っていたチャラ男だが、前方の商人達や女二人が目を丸くして自分の背後を見ていることと、次第に大きくなる音に苛ついて「なんだよ!」と文句を垂れつつ背後の街道を振り返った。
そして、見たこともない黒い箱型の物体が猛烈な勢いで砂埃を巻き上げながら街道を爆走してくる光景を目撃して、「おへぇ!?」と奇妙な声を上げながらギョッと目を剝いた。
にわかに騒がしくなる人々。「すわっ、魔物か!」と逃げ出そうとするが、箱型の物体の速度は彼等の予想を軽く超えるものであり、驚愕から我に返った脳が手足に命令を送ったときには、既に直ぐそこまで迫っていた。
チャラ男が硬直する。列に並ぶ人々が「もうダメだ!」とその瞳に絶望を映す。
爆走してくる黒い箱型の物体が、あわや行列に衝突するかと思われたその時