マイダスタッチ~内閣府超常経済犯罪対策課~
小学館eBooks
マイダスタッチ ~内閣府超常経済犯罪対策課~
ますもとたくや
イラスト 人米
目次
第一章 「神の見えざる手に、小銭を載せて」
第二章 「おにぎりとノブレス・オブリージュ」
第三章 「お金のガンコな汚れ」
第四章 「お金に汚い才能」
第五章 「フィンブルの冬」
あとがき
第一章 「神の見えざる手に、小銭を載せて」
昔々。そりゃもう、紀元前何世紀とかいうクソ遠い昔。
ギリシャ神話によると古代のフリギアって国にマイダスって名前の王様がいたらしい。
マイダス王はある日、手に触れたものがすべて黄金に変わるという能力を神様から与えられた。
王は狂喜し、その力を存分に使って巨財を築いたとさ。うらやましい話だ。
時は過ぎて20××年。5年前の冬のある日。突如、第二次世界大戦前の大恐慌以来とかいうレベルの金融危機がウォール街を襲った。その『暗黒の金曜日ブラツクフライデー』をきっかけに不況が疫病みたいに世界中に広がり、経済格差が引き起こした紛争や飢餓で沢山の人々が死んだ。
同じころ、奇妙な能力をもつ人間の存在が世界各国で報告されはじめた。
イギリスでは小銭を弾丸のように投げつけてひったくり犯を捕らえた婆さんが現れ、インドのスラム街には数キロ先に落ちた紙幣の音が聞こえるという全盲の少年が登場した。香ホン港コンでは、土地の匂いで地価の変動を予測できるとかいう怪しい親父が話題になり、南アフリカでは金鉱脈が眠る場所を正確に言い当てた少女が、神としてあがめられたりもしていた。
彼らがもつ能力はどれもお金に関係するという共通点があることから、ニューヨークの経済紙の記者がマイダス王の神話にちなんで、彼らの能力を『マイダスタッチ』と名付けた。
記事の中で彼はこう書いた。『いにしえより、その力をもつ者は巨万の富を手に入れることができるという言い伝えがある』と───。
で。現在。俺は掌にある小銭を数えてみる。
───七二九円。それが俺の所持金だった。
マジか俺。二十二歳の男としては貧しすぎやしないか。ましてや公務員なんだぞ。これじゃまるで中学生の財布だ。いや、中学生のほうがもっとリッチかもしれん。小銭をじゃらじゃらと財布に戻して深く嘆息していると、助手席からレジーナが氷みたいな碧眼で俺をにらむ。
「いつまで名残