天空監獄の魔術画廊 V
天空監獄の魔術画廊Ⅴ
永菜葉一
角川スニーカー文庫
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、
本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。
CONTENTS
序章
一章
二章
三章
四章
終章
あとがき
序章
『天空の大監獄』のさらに上空。
薄い雲海のなかを一人の少女──スピカが浮遊している。
長い銀髪が風に吹かれ、川のように揺蕩っている。
「この世界も様変わりしたね。あの頃から変わらないのは空の青さくらいかな?」
眼下には北の霊峰グランデ山脈が広がり、麓の大平原には革命軍が集結していた。
金や銀、青銅の甲冑を着込んだ騎士たち。武骨な鉄の鎧の傭兵たち。杖を掲げた魔術師や法衣の僧兵たちもいる。何千何万という大軍勢だ。
「ほんと邪魔しないでほしいんだよね。……ケラウノスの起動はコレの悲願なんだから」
軍勢の中央には死骸の山があった。スピカの放ったガーディアンたちの成れの果てだ。
その頂きに立っているのは、一人の老人。
『最果ての魔術師』イングラム・デェイウォーカー。
この六十年ほどでスピカと二度戦い、いまだに生き延びている、人類最強の魔術師である。
「本当に懲りないね、最果ての彼は。一回目は単身で、二回目は仲間連れで、それで三回目は大軍勢を率いてきたか。何度返り討ちにされれば気が済むんだか……」
と、そんな呟きを魔術で聞き留めたらしい。遥か7000メートル下方にいるイングラムと目が合った。こちらに気づくと同時、拳を振り上げる。大地から魔術光が溢れ、瞬く間に巨大な火柱が上がった。
地獄から噴き出たような業火は『天空の大監獄』の下部地盤に直撃。大爆発を起こし、岩壁オブジェクトの一部から白煙がたなびいた。
イングラムがニィと笑んで声を響かせる。
「これは反撃の狼煙だ。待っていろ、リオンよ。この無敵の師匠がお前を迎えにいってやろう!」
スピカはふんと鼻で笑い、虚空へ呟く。
「端末、おいで」
「はい。はい。スピカ様。お呼びで。しょうか?」
ぽんっと現れたミタマへ、指示を出す。
「高度上昇しちゃって。周回の軌道ルーチンは放棄。六百秒で安全圏を計測後、新たな高度を維持。航路は四百年前辺りのを適当に参照すれ