ストライクフォール
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ストライクフォール
長谷敏司
イラスト 筑波マサヒロ
目次
第一章
第二章
あとがき
《宇宙の王》を名乗る異邦人は、万能の泥をもたらした。
粘土状のそれは、《コーデックス》というコードに従って加工することで、さまざまな装置になったのだ。人工重力、この宇宙の外のポケット宇宙からエネルギーを引き出すらしき反応炉、強力なエネルギー遮蔽技術──まさに世界を革新する技術だった。人類に原理が理解できないこれらの装置は、チル・ウエポンと呼ばれた。
その泥が宇宙空間から採取されたことから、人類はフロンティアを宇宙に求める。
そして、身の丈以上の力を手にした人類は、戦争を始めた。
人類史上初の宇宙戦争は、未曾有の惨劇をもたらした。だが、あわや宇宙と地球で存亡をかけた総力戦が始まろうとしたとき、彼らは理性を振り絞った。
万能の道具を戦争に使うことを制限し、ともに繁栄を享受することを認め合ったのだ。
だが、備えることをやめられない人類は、チル・ウエポンを戦争に極めて近づけた競技に投入し、戦技と装備を開発し始めた。
疑似戦争としての競技、いまや全宇宙に広がったストライクフォールの始まりである。
第一章
いま、音のない宇宙空間へ向けて、鉄骨を組み合わせたオブジェクトが三百メートルもの巨大さで突き出している。
それは四本の金属柱を井桁のかたちに組んだ、ひどく無骨なものだ。柱と柱の間は、三十メートルほどもある。人間が一人で立つには寂しすぎる場所だ。
巨大なのは、かつて宇宙へ向けて戦闘機を打ち出すためのカタパルトだったからだ。
いまは違う。飛び込み台のように、根元に残る幅広の板がその名残だ。
男は役目を果たすため、その台に一人で立っていた。エースだからだ。
重力も空気もない世界から、彼を守るのは金属の外殻だ。その操縦槽は、身長六メートルの巨人に背負われている。搭乗者の中枢神経の信号を読み取り、第二の肉体として機能するストライクシェルだ。
遮るもののない太陽光線が、真っ白に金属材を照らす。
空気で減衰されない光を受け続けて、それは焼けるほど熱くなっている。ストライクシェルの表面温度もすでに摂氏二八〇度に上昇した。
彼は広い板の突端にいる。足元を見下ろせば、そこにあるのは底がない宇宙だ。
スーツの