勇者に期待した僕がバカでした
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勇者に期待した僕がバカでした
ハマカズシ
イラスト Ixy(イクシー)
目次
序章
第一章:勇者、こん棒を買う
第二章:勇者、魔法を覚えない
第三章:勇者、冒険に出ざるを得ない
終章
あとがき
[序章]
* * *
噂というものが流れるスピードは、ガーゴイルが空を翔るそれよりも速い。突拍子もないことほど、広まるスピードが速くなるのはなぜだろう。
「勇者がこん棒を買ったんだって?」
昼休みの食堂で、誰かが囁いた。
「こん棒? あんなクソ弱いただの棒きれ、買ってる奴なんか見たことないぞ。最初の村の武器屋にだって鉄の剣くらい売ってるだろう? 嘘言えよ」
「マジだって。昨日の幹部会議で話し合われてたみたいなんだよ。あえてこん棒を選んで買ったって話だぜ」
デーモン型のモンスターが得意げに話す。
「それが本当なら、今度の勇者はバカとしか思えないな」
「ガハハ、ちげぇねえな」
骨付き合成肉を豪快に齧りながら、トラ型モンスターが下品に笑った。
ここ数日で「勇者がこん棒を買った事件」は魔王城内で話題の種になっていた。
「そんな勇者と戦って負けてやるこっちの身にもなってほしいもんだな」
「せめて鉄の剣でズバーッと斬られたいぜ。なあ?」
「ちげぇねえな!」
さらに大きな笑い声が食堂に響く。
勇者との戦いにおいて、いかに攻撃を受け、華々しく散るか。勇者に経験値を与えるためにも、モンスターは簡単に負けるわけにはいかない。自分たちは噛ませ犬だと認識した上で、モンスターには滅びの美学、矜持がある。
「何せ今回の勇者は三十年ぶりだろ? 俺たちもかっこよく倒されて、スッキリと転生したいもんだよ」
「そりゃそうだ。弱い勇者に手加減して負けるみたいなみっともねぇことはしたくないぜ」
こん棒を振り回す情けない勇者に負けるのはモンスターにとって美しくない。強い勇者に破れて、来世は強いモンスターに転生することがモンスターに課されたカルマである。
ここ、ゴルディアス魔王軍の魔王秘書エルブランコはモンスターたちの噂話に耳を傾けながら、日替わり定食を食べていた。
最近は魔王城の食堂も人間の文化を取り入れたメニューが増えてきている。今日はミルフィーユカツをメインに、よく分からない野菜のサラダとよく分からないキノコの