筺底のエルピス4 -廃棄未来-
小学館eBooks〈立ち読み版〉
筺底のエルピス 4 ─廃棄未来─
オキシタケヒコ
イラスト toi8
目次
14◆暴虐の宴
15◆祓魔師たちという剣
16◆エンブリオ
17◆長い長い夜の果てに
18◆姥山冬九郎という男
19◆銀杏の玉座
20◆捨環戦
21◆朱鷺川ひかえという器
22◆最悪の企み
23◆引き継ぐもの
24◆百刈燈という妹
25◆別れ
26◆貴治崎花という女
27◆最悪の最期
28◆消された名の先に
29◆朋之浦結という親友
30◆百刈圭という相棒
31◆乾叶という鬼
32◆過ぎし日への届け物
33◆帰る場所
14◆暴虐の宴
目に映る景色が、連続性を失っていた。
自分が時の檻に囚われ、そして解放されたことを、ヒルデは即座に悟った。
つい今しがた、左脚と右腕をあっという間に切り落とされ、暗い林の地面をのたうちながら見上げた頭上。視界の端に、たしかに捉えたはずだった敵のシルエット──。
だが、その姿は一瞬でかき消え、枝葉の隙間に覗いていたちぎれ雲の形や位置も、夜空ごと塗り直されたかのように、瞬時に切り替わってしまっていた。
時間の断絶──。何者かの停時フィールドに、ヒルデは閉じ込められていたのだ。
がさっ、ざざっ、と背後の茂みが音を立てた。
慌てて体を捻り、腰のホルスターから無事な左腕で銃を引き抜いた。
初弾は薬室に装填済み。深手を負った今、音の正体を見極めている暇などない。
遠ざかるその音へ向け、転がりながら撃ち込んだ。
腕に二十二口径特有の軽い衝撃。ぱすぱすぱすん、と乾いた発砲音が連続する。
冷戦時代末期にCIAが使っていた暗殺用拳銃の末裔だが、消音器サプレツサーと銃身が一体化した小型のボディは、服に忍ばせるのには重宝こそすれ、山の中に持ち込んで茂みに向けて発砲するためのものではない。小口径で貫通力も高くないし、木々の梢を突き抜けるだけで弾道が逸れかねない代物だ。
ただし、当たりはする。
茂みの揺れと音から、ヒルデはすでに敵の位置を割り出していた。獲物の座標を捉える機能に特化して調整された彼女の改造眼球フアゾムスが、敵の移動経路をシミュレートし、その演算結果がヒルデの予測と合致することを確認して、該当座標へとマーカーを追従させる。
弾道変化の予想