不戦無敵の影殺師7
小学館eBooks〈立ち読み版〉
不戦無敵の影殺師ヴァージン・ナイフ7
森田季節
イラスト にぃと
目次
1話 パープル・スカイ
2話 HUMAN GATE
3話 残酷な夜を越えて
4話 超人の領域へ
5話 はるか、かなたへ
終章
あとがき
1話 パープル・スカイ
* * *
もしかすると、今日はみぞれが経験した中で最も印象的な一日だったかもしれない。
これまでで最高の戦闘能力を発揮して、そのあとに恋人が死んで、異能力者業界を引退して理系の学部に進むことを決めた。これでもかっていうほどに詰め込まれた一日だ。
人生には転機っていうのが誰しもあるだろうけど、その中でもとびきりデカいのがみぞれに訪れた。すぐ近くであおりをくらった俺たちも、その空気にあてられて、やけに疲労していた。
本当に疲れたし、今日は帰って十時間は寝るかなんて思っていた。
なのに、夕方にまだこんな大きな話が残ってたのか。
「人間になると決めたら、教えてね。そのための異能力者を紹介するから」
小手毬の前で両手を広げて、天児奈はいつもの軽い調子で言った。
それと同時に、きっと「人間になる権利」という目に見えないものが天児奈の元から小手毬のほうに渡ったのだ。
天児奈はベンチの上に立っていたし、そこに夕焼けの赤が入ってもきたから、儀式めいて見えた。
一段高いところから、王が勲章でも授けているような光景に思えた。
小手毬はどんな感情を示せばいいかわからないみたいに、間の抜けた顔で口を開けていた。
たしかにみぞれとの戦闘以外のことを考える余裕もなくて、その権利がもらえることも頭から抜けていただろう。
しばらく誰も何もしゃべらなかった。怖いほどに静かだった。
今いるここは駅前の景色によく似ているけど、天児奈が連れてきた誰もいない世界なのだ。だから、音を出すものだって存在しない。街というものは自分で音を作ることはない。そこにいる人間が音を作る。どんなに栄えているように見える街だって、それは同じだ。そんなことを人の絶えた景色で思い知る。
「本当、なんですか?」
「ウソって言ってあげようか?」
「それは困ります!」
「じゃあ、私を信じてね。といっても、