イー·ヘブン2 死者の海賊と崩壊のメトロポリス
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序章
その水面は深く暗い青。
その青は存在しないはずの天を映した鏡。
かつて、全ての生物はここから生まれたとされている。
見つめれば見つめるほど、吸い込まれそうな青。まるで魂がここに還ろうとしているかのようだ。
しかし白い波が跳ね上がる度に、俺の意識は現実に戻る。そうだ……俺が帰るのはここじゃない。
だが今は──
「海だぁああ!! スゲェええええ!!」
そう叫ぶことに夢中だった。
俺は今、仲間たちと共に船に乗っている。
鉄の黒船などではなく、木造の船だ。動力も風と人力。至って原始的な船だ。
だがこの船そのものは、とても高度な技術でできている。浮力だ何だということではなく、存在そのものが高度なのだ。
何故ならこの船は、大量のポリゴンに洗練されたテクスチャを貼り付け、現実のものに限りなく近い力学演算に従って航海している、電子の海を行く船なのだから。
「大げさねぇ……。ホント子供なんだから」
背後から呆れた声が刺さる。振り返るとそこには、眩しい少女がいた。いや、決して美しいとか、水着が眩しいとか、そういう意味の眩しいではなく──
「テカテカ眩しいんだよお前の鎧! 日光が反射して! あと、大げさなもんか。俺にとっちゃ初めて見る海なんだからさ」
俺に指摘されて不機嫌そうに、自分が着ている白銀の甲冑を見つめる少女。「そんなに眩しい?」などと強がりながら鎧を見下ろす彼女だが、次第に瞼をシバシバと動かし始めている。そらみたことか。
彼女は、俺と共に旅をしている仲間の一人──マイカだ。銀色のきめ細かい長髪に、エメラルドの瞳、そしてこの世界の警察である「憲兵団」指定の騎士甲冑を身にまとう、見目だけは麗しい少女だ。
「だから俺みたいに黒くしとけってあれほど……」
「アンタはただ中二病なだけでしょ? 海ぐらいではしゃいじゃってさ」
「誰が中二だ! どんな大人でも、初めて海を見たら誰だって興奮するだろ」
そう、この大きすぎる水たまりには、見る者を圧倒する何かがある。美しさと同時に、ひとつまみの恐怖を感じさせる。だからこそ胸が大きく震えるのかもしれない。
「まあ、そうよね。特にアンタはまだ1歳だもんね」マイカが人差し指を立てて皮肉る。
「もうすぐ