ブック×マーク!
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桧山直樹
さくや朔日
目次
序章
第一章 謎の図書館
第二章 司書へのスカウト
第三章 司書の仕事
第四章 本の処分
第五章 異界侵食
第六章 土方歳三の夢
終章
あとがき
序章
「菅原君、ちょっと来て」
放課後の教室で背後からかけられた女性の声に、菅原真は一瞬戸惑った。
クラスメイトの声ならだいたい記憶しているつもりだったが、このぼそっとした声の主はすぐにはピンとこなかったのだ。
真は当然の反応として振り返る。それによって、声の主が誰なのかは確認できたものの、彼の顔から戸惑いの表情は消えなかった。
「小平さん? 俺に何か用?」
小平彩は、クラスの女子の中でも最も目立たない娘と言っていい。
小柄で、眼鏡をかけていて、とにかくおとなしい。
誰かと特に親しい様子もなく、無口で静か、休み時間にはいつも一人で難しそうな本を読んでいる、そんな印象しかない。声だけですぐに判別できなかったのも、彼女が普段あまりにもしゃべらないからだ。授業で指された時などのどうしても必要な場合以外、本当に彼女はしゃべらないし、他人と関わろうとしない。
ネクラ、変わり者、社交性のない娘。
クラスでの彼女の評価はだいたいそんなところだろう。彼女の方から男子に声をかけたということ自体が、ちょっとした珍事だ。
実際、真の悪友の木野をはじめ、教室に残っていた何人かの他のクラスメイトたちも、その珍事に目を丸くして、どうなることかと成り行きを見守っているようだ。彼らが何を期待しているのか、真もなんとなく察しがつく。
(小平さんが、俺に声をかけたのは、俺に気があるから? 『ちょっと来て』ってことは、これからどこかに場所を移して告白……?)
そんなわけはない、とは思うが、そう意識してしまうと、なんとなく焦ってしまう。
小平彩は、確かに変わり者ではあるが、容姿は悪くない。
高校二年生にしては身長は低い方だが、それはそれで、〝美少女〟とか〝眼鏡っ娘〟といった言葉が似合う感じで、外見は可愛いタイプだ。
「ええと、その、ちょっと……」
真は、どう反応していいのか困り、しどろもどろになる。
が、ふと気がつくと、そんな真を、彩は小馬鹿にしたような冷たい目で見上げていた。
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