キミもまた、偽恋(オタク)だとしても。1〈上〉
目次
序章 婚約式
第一章 越境入学
第二章 偽装彼氏
第三章 主家発見
第四章 偽装恋人からお試し交際へ
第五章 偽装交際、本格開始
第六章 交際宣言
第七章 偶然の遭遇、恐怖の遭遇
終章 長島薫子の独白
どうしてこうなった?
ネット上ではよく目にするその言葉が、今俺の頭の中で何度もリフレインされていた。
とはいえ、それは別段俺が特別物事を大袈裟に捉える質だから、という訳ではないことを明言させて貰いたい。
今、俺はえらく歴史を感じさせる日本間の上座に鎮座している。
しかも、俺の服装は、驚くことに『紋付き羽織袴』だ。当たり前だが、こんな仰々しい和服に袖を通したのは、今日が初めてである。そもそも自分の家の『家紋』の存在すら今日知ったくらいだ。
俺の親父はどこにでもいる役所勤めの公務員で、お袋はパートのおばちゃんだ。そんな一般家庭のガキが村上政樹こと俺である。
な? 自分ちの家紋を知らなくても全くおかしくないだろう?
そんな一山いくらの高校一年生が、ご立派な『紋付き羽織袴』を着ているのだ。
この服に着替えてから一度も鏡を見ていないが、それでも確信をもって断言できる。絶対に似合っていない、と。
服に着られるとは、まさに今の俺のことを言うのだろう。
だが、そんな俺の内心など完全に置いてけぼりにして、会場はヒートアップしていた。
「うおお、まさか生きてこの日を迎えることが出来るとは……!」
「これでいつお迎えが来ても思い残すことはないよ」
「これも八幡様のお導きかねえ」
感涙にむせぶのは、和服姿の爺さん婆さん達だ。爺さん達は紋付き袴、婆さん達は黒地に金糸銀糸で飾りの入った留め袖という、和服の正装を違和感なく着こなしている。
この総妻市に来てまだ一月にもならない俺はよく知らないが、この長島という家は、総妻市民ならば、知らない人の方が珍しいくらいの旧家・名家なのだそうだ。
そんな地方の名士達が感動に泣き濡れる中、俺のような若造に「上座に堂々と座っていろ」、というのはもはや一種のイジメに近いと思う。
「…………」
俺は助けを求めるように、視線を横に向ける。
そこには、ある意味俺をこの状況に陥れた『元凶』ともいえる人物が