高度に発達した魔法は神の奇蹟と区別がつかない
挿画:kakao
デザイン:高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章
骨だけの竜が、痩身の学生を乗せて蒼穹を舞う。
エルド・アルウェンは召喚術師だ。スケルタル・エンシェントドラゴンは彼が契約した召喚獣のなかで、もっとも機動性に優れている。
雲ひとつない青空のもと、骨の翼が虹色のオーラで皮膜を張って、ゆっくりと旋回する。いちど気流に乗ってしまえば、その巨体ゆえの尋常ではないマナの消費も多少は抑えることができた。
「帝都が消えた」
エルドは、骨竜の背中から周囲の光景を見下ろして驚愕した。
地震の前とは地形が一変しているのだ。
ダナン魔導学院は、帝都に隣接している。学院自体も広大な敷地を持つ。
なのにいま、眼下に広がる学院はパルティタ女子寮と旧校舎を残すのみ。本校舎や実験棟、研究棟、教職員寮、男子寮といった建物は影も形もなく、周囲には原生林が広がっている。
森の外は草原で、川沿いに高い石壁に囲まれた町が見えた。
ずいぶんと古めかしいつくりの城塞都市だ。監視塔や壁の上には、ところ狭しと弓を手にした兵士たちが立っている。
やけにものものしい。
それも道理で、どうやら彼らは一軍と対峙しているようなのだ。
「魔獣を連れた軍隊か?」
草原に展開し、いましも攻城戦を行なおうとしている集団は、いまとなっては動物園でしか見られないないような、たいへんに珍しい魔獣を引きつれていた。
「あの魔獣たち、わざわざ暗黒大陸から連れてきたのか」
身の丈三メートル半で直立歩行するタイタン・エイプの集団におおきな石を持たせているのは、あれを投擲し、カタパルトのかわりとするつもりなのだろう。
体長四メートルを超える、八本脚の蜥蜴が八体ほど。たしかバジリスクと呼ばれる、石化のブレスを吐く魔獣だ。
軍の後方に、ひときわ目を惹く巨躯が、一体。
全高二十メートル、全長四十メートルにはなろうかという超大型の地竜である。
「博物館で見たベヒモスにそっくりだ」
それらを使役するのは、とうの昔に絶滅したはずの種族であった。
緑の肌で豚鼻の人型生物は、おそらくオークである。知性の低さと粗暴さから同族同士で殺し合い、五百年以上前に絶滅したはずだ。
身の丈二メートル半の橙色の肌をした巨人は、鬼、あるいはオーガと呼ばれるものたちであったはず。