ふあゆ
小学館eBooks
ふあゆ
今慈ムジナ
イラスト しづ
目次
観測されない前日譚
第一章 ※※※
観測されない閑話
第二章 ※あ※
第三章 ふ※※
第四章 ※※ゆ
終 章 ふあゆ
観測される後日談
あとがき
夜、夜だと思う、夜である。
今、自分たちの視界には闇が広がっていた。
観測する側される側、相互作用が働いて、お互いに影響を与えている。
自分たちはこうして夜を観測している。つまり自分たちは影響を与える存在へ、ついに昇華したのだ。
「まっちゃうー」
自分たちは存在証明の産声を上げた。
電柱がある、街灯がある、郵便ポストがある、交通標識がある、小川がある、雪がちょっぴりある、柵がある、一軒家がたくさんある、ビルが少しだけある。
でも人がいない。
ここは街だが、田舎と呼ばれる辺鄙な場所でもある。
だから夜でも人がいない、人がいなければ自分たちは自分を形作れない。
探しに行こう、人を。
等間隔に配置された釣り針状の街灯に沿うように、アスファルト舗装の歩道を進む。
道端へわずかに積もる泥混じりの雪は、冬と呼ばれる季節を自分たちへ認識させたが、体感では冬を感じられない。寒さの概念が伝わらないほど、自分たちは未熟だった。
散策を続けていけば、ひときわ明るい光に出くわした。
そこはコンビニエンスストアと呼ばれる家で、二十四時間営業することがあり、観測者の知識では、よく人が集まる場所らしい。
これは好都合だと、誘導灯に導かれる飛行機のように店へ近づいた。
「まっちゃう」
店の扉が開かない、なぜか。
確か、これは自動扉と呼ばれる扉。この扉が開く条件は様々で、人感センサー、重量センサー、タッチ式──誤作動を防ぐため、今は人感センサーが主流。
つまり自分たちは人と感知されてない、あるいは重量がないという結論に至る。
店に入れず立ち往生していると、若い女が店内から現れて、自動扉を開けてくれた。
「まっちゃう、まっちゃう」
感謝を述べるが、彼女は自分たちに気づかず、素通りしていった。
とても困った。自分たちという境界線は、いまだ自分たちでしかなく、自分たちが自分になり、理想を言えば私になることが望ましいのだが、このままでは叶いそうにない。
観測者に従い、自分たちの不確定性