不完全魔王のチート殺し3
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口絵・本文イラスト/早川ハルイ
SDイラスト/桜みさき
デザイン/AFTERGLOW
編集/庄司智
■序章
一冊の本に出会った。
あれは、私がまだキャメロンの小等部に通っていた頃──五年前の話だ。
私──蒼井瑠璃梨は、街の中心部にある本屋を訪れていた。
欲しいものがあったわけではない。本を買う習慣があったわけでもない。
ただ、身体が栄養を欲するように、ミネラルが不足すれば塩気のあるものが食べたくなるように、今いる自分の外の世界を描いたなにかに、触れたいと思ったのだ。
まだ自覚は無かったけど、世界に──いや、自分に不満があったのだろう。
変えたいという意思があったから、自分の掌にはない世界を求めて、本というものを渇望してしまっていたような気がする。
だから、というわけでもないのだろう。
べつに、手に取るのはあの本ではなくても良かったわけだし、そうでない本の方が、至極当然に健全で完全に最善だった気がする。
それでも、私が手に取ったのはあの本だった。
女の人が、あられもない姿になって、縄で縛られている本。
その方法や例を記したもの。
私は、他の二冊の本でそれを挟むと、他の誰かに見られないかと気にしながらも、レジに運んだ。
そして、買った後に、ふと我に返ってこんなことを思ったのだ。
──私は、どうしてこの本を買ってしまったのだろうか、と。
でも、その本は、私にとっての宝物となった。
つまり好きになった。
読んでいる時の高揚感とか。身体の奥が熱くなって、ジンと震える感じとか。
なによりも、なんだか息苦しさがなくなるような、そんな感じとか。
どうしてそんな風に思うのか、やっぱり自分では、よくわからないままに。
でも、確かなことがあった。
他のみんながどう思おうが、私はこの本が好きだ。